研究課題/領域番号 |
23790734
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研究機関 | 科学警察研究所 |
研究代表者 |
藤浪 良仁 科学警察研究所, 法科学第一部, 主任研究官 (30335632)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | MALDI / マススペクトル / イメージング / 体液斑 / 精液 / 膣液 |
研究概要 |
近年、DNA型検査法の感度及び精度が高まるに伴い、これまで以上に試料が正確に取り扱われていることを明確に示す必要がある。特に性犯罪に関しては、精液及び膣液を証明した上で、混合斑の中から精液及び膣液の単独斑の位置を画像化し、ゲノム採取を確実に行なうと共に、再鑑定を想定した原試料の保存を確保できる技術の開発が求められている。そこで、近年目覚ましい進歩を遂げているイメージング質量分析を用いて、各種体液斑の人獣鑑別を含めた網羅的鑑別及び正確な試料採取を可能にすることを目的とする。初年度はまず、各種体液のMALDI-TOF-MSによるスペクトルパターンの取得条件の検討から行なった。ヒト体液斑の簡易抽出物を対象にMALDI-TOF-MSのスペクトルパターンの取得を試みた。実験方法は、体液をティッシュペーパーに染み込ませ、室温で3日間風乾し体液斑を作成した。これを水に懸濁し、ボルテックスミキサーで簡易抽出し、体液斑抽出サンプルとした。これをマトリックス溶液に 1:4 で混和し、MALDI plate のスポットにアプライした。常温で風乾後、Bruker Daltonics 社のAutoflex II (MALDI-TOF-MS)で自動測定し、専用解析ソフトウェアで解析を行った。検討の結果、ボランティア由来の精液、尿、汗、血液、膣液は特異ピークが観察されマススペクトルパターンのバラツキは少なく同定が容易と思われる。一方、唾液、鼻汁 は構成分子の絶対量が少ないうえ、湿潤外部環境に分泌されるためにパターン変動が激しいと思われ、精度の高い同定のためには多くのパターンを取得する必要があると思われる。このように、MALDI-TOF-MS を用いた体液の検査法は、各体液種の特異ピークが観察されるため、体液種識別のための迅速な1次スクリーニングとして有効と思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
精液、尿、汗、血液、膣液、唾液、鼻汁の各種体液および体液斑のスペクトルの取得に、マトリックスはCHCAを用いた時に有効ピークが多数存在するため最適と判断することが出来た。マススペクトルの取得領域は低分子量側は分解物により不安定で、高分子量側は有効ピークの出現頻度が低いことを考慮し、1000 m/z から 10000 m/z の領域が最適であると判断した。各種体液のMALDI-TOF-MS取得時の性状も、精液、尿、汗、血液、膣液は特異ピークが観察されマススペクトルパターンのバラツキは少なく、唾液、鼻汁 は構成分子の絶対量が少ないうえ、湿潤外部環境に分泌されるためスペクトルパターンの変動が激しいなどが明らかにすることが出来た。また原資料保存のため体液斑のレプリカを転写膜で作成するが、膜素材もポアサイズ0.2μmのPVDF膜が最適と思われた。このように体液斑のMALDI-TOF-MSによるイメージングデータの取得の準備を整えることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
想定鑑定資料からの体液斑のイメージングを行なう。1.陳旧化の条件である温度・湿度・明かり条件(日光及び照明)を設定し、マススペクトル及び特異ピークの変化データを取得する(残存し易い高分子の検索)。2.混合体液斑のイメージングの画像中で、単独体液領域と混合領域を色分けする。3.イメージングの画像を実物大で透明フィルムにカラー印刷し、実試料に重ね合わせ、正確に体液ごとに試料採取する。4.無菌状態の体液斑と比較し、常在微生物による崩壊の影響を検討する。5.本検出系へ混入し得る、夾雑物混入の影響を検討する。6.ヒト以外の動物体液との違いを判別できるかどうかの人獣鑑別に対して検討する。7.試料が平面に近い場合、特に微細な場合、ターゲットプレート上に直接載せて、試料直接からのイメージングを行う。8.試料から直接マススペクトルデータを取得した場合、レーザー照射ポイント間が残存試料となるが、その時の残存試料のDNAが損傷しているかどうか、精製DNAのフラグメント化で検証する。研究計画が当初計画どおりに進まない時は、体液中のイオン(Na+, K+など)がイオン化の阻害物質となることがあるので、試料を転写固定後のフィルムを洗浄し、脱塩処理を加え再検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
機器の購入は無く、消耗品のみの購入を予定している。消耗品は、一般器具、一般試薬、MALDI-TOF-MS用 Matrix、抗体液抗体、体液検出試薬、動物体液、試料転写用シートの購入を予定している。また国内旅費の国内での成果発表や謝金等の論文の校閲料、その他費用として印刷費および研究成果投稿料を予定している。
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