研究課題/領域番号 |
23790744
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
清水 孝洋 高知大学, 教育研究部医療学系, 講師 (00363276)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 脳内大麻 / 2-アラキドノイルグリセロール / カンナビノイドCB受容体 / アラキドン酸 / モノアシルグリセロールリパーゼ / 中枢性交感神経―副腎髄質系 / グルタミン酸神経系 / NMDA受容体 |
研究概要 |
ストレスによる交感神経―副腎髄質(SA)系の過剰な活性化は高血圧症、消化性潰瘍、免疫機能低下による発癌等を惹起する事から、本系賦活の中枢性制御機構の解明はそれら疾病の予防と治療に重要である。既に代表者らは、脳内エンドカンナビノイド(eCB)(いわゆる脳内大麻)の2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)が中枢性SA系賦活時に産生され、本賦活に対し二方向性の役割[脳内アラキドン酸(AA)前駆物質としての促進性役割、かつ、カンナビノイドCB1受容体を介したeCBとしての抑制性役割]を有する事を明らかにしてきた。本年度は、(1)外来性投与2-AGが本賦活に及ぼす影響、(2)eCBによる本賦活抑制作用機序、について解析した。 成果(1):脳室内投与2-AGは中枢性SA系賦活を惹起し、その反応はJZL184[2-AGからのAA産生酵素、モノアシルグリセロールリパーゼ(MGL)の阻害薬]により抑制された。更に、ボンベシン(BB)による中枢性SA系賦活は2-AG ether(MGLにより分解されない2-AGアナログ)により抑制され、その抑制作用はリモナバント(Rimo)(CB1受容体遮断薬)存在下で消失した。よって、本賦活に対する2-AGの二方向性の役割が更に明らかとなり、ストレス関連疾患に対するeCBシグナル増強薬(CB1受容体刺激薬等)の有用性が示唆された。 成果(2):BBによる本賦活はMK-801[NMDA型グルタミン酸(Glu)受容体遮断薬]及びUCM707(eCB取込み阻害薬)により抑制され、Rimoにより増強された。一方、NMDA(NMDA型Glu受容体刺激薬)による中枢性SA系賦活はUCM707及びRimoの影響を受けなかった。よって、BBによる本賦活に脳内Glu神経系が関与し、本賦活に対するeCBの抑制作用が、少なくともGlu神経の後シナプスよりも上流を標的にしている事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
中枢性SA系の賦活中枢である視床下部の室傍核(PVN)に興奮性の入力をしているGlu神経系が、脳内大麻による本賦活抑制作用の作用標的である可能性を検討するのが本研究の目的である。現在までに、ストレス関連ペプチドのBBによる中枢性SA系賦活に脳内Glu神経系/NMDA型Glu受容体が関与し、本賦活に対するeCBの抑制作用が、少なくともGlu神経の後シナプスよりも上流を標的にしている事を示唆する結果が得られた。しかしながらこれは脳室内投与の実験系を用いた結果であり、脳内作用部位の詳細についてまでは言及できない。一方、PVNレベルでの検討も同時に進めてきたが、結果については現状、報告できるレベルまでまとまっていない。 以上から、現在までの達成度を上記の様に評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究方法:ウレタン麻酔下のラットを実験に用いる。ストレス関連ペプチドのBBを脳定位固定下にPVNへ微量投与し、中枢性にSA系を賦活させる。投与後、経時的に動脈血を採血し、血中のカテコールアミン量を高速液体クロマトグラフィーにより定量する事で、SA系賦活の程度を評価する。 計画1.PVNレベルでの中枢性SA系賦活に対する脳内大麻の影響:BBのラットPVN微量投与による中枢性SA系賦活に対する、脳内eCBの役割を、CB1受容体遮断薬及びeCB取込み阻害薬(eCBの作用を増強させる薬物)により検討する。計画2.PVNレベルでの中枢性SA系賦活に対するNMDA型Glu受容体の関与:BBのラットPVN微量投与による中枢性SA系賦活に対する、NMDA型Glu受容体遮断薬の影響を検討する。更に、NMDA型Glu受容体刺激薬のラットPVN微量投与が中枢性SA系賦活に及ぼす影響もあわせて検討する。計画3.視床下部NMDA型Glu受容体レベルでの中枢性SA系賦活に対する脳内大麻の影響:CB1受容体遮断薬およびeCB取込み阻害薬がNMDA型Glu受容体刺激薬のラットPVN微量投与による中枢性SA系賦活に及ぼす影響を検討する。 以上から、中枢性SA系の賦活中枢であるPVNへ興奮性の入力をしているGlu神経系が、脳内大麻による本賦活抑制作用の作用標的である事を明らかにする。 研究遂行の課題と対策:現状、PVNへの微量投与は脳室内投与に比して、目的の領域への投薬が成功する率が低い点が、本研究推進の課題である。現在、別の研究課題にて、マイクロダイアリシス法にてPVN内で遊離されたGluを回収し、定量する実験系を構築中である。そこで、BB脳室内投与下において、PVNへ入力しているGlu神経系の活動に及ぼす、上記1~3の各遮断薬/阻害薬の影響を検討する準備を現在進めており、本研究目的の達成を目指している。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該研究費が生じた状況:申請当初、購入を予定していた備品(レコーダー及びポンプ)について、研究室に保管されていた古いタイプを修理して使用可能にしたため、その分の研究費が浮く形となった。 平成24年度以降に請求する研究費と合わせた使用計画:上述した古いタイプの修理備品については、本研究期間中に(再度)故障するリスクがあるため、それに備えて必要な費用を確保しておく。他の費用に関しては、上述した研究の遅れを取り戻すべく、消耗品(動物、投与薬物など)の購入に充てる。特にラットの使用総数は、予定の200匹を300匹に増量し、研究推進のペースアップを図る。
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