漢方薬が引き起こす副作用のうち頻度が高いものとして、甘草による偽アルドステロン症があげられる。本研究では、その発症メカニズムと発症における個体差の原因解明を目的としている。偽アルドステロン症の原因物質は、甘草含有成分グリチルリチンの主代謝物であるグリチルレチン酸(GA)とされていたが、臨床試験の結果から3-モノグルクロニルグリチルレチン酸(3MGA)である可能性が指摘されている。3MGAは特定の個人しか血液中に出現しないことから、そのような個体ではGAおよび3MGAの体内動態に影響するトランスポーターの変異や機能不全があることを申請者は推測している。 尿細管上皮細胞の血管側に発現している有機アニオントランスポーターOAT 類および有機アニオン輸送ペプチドOATP類の遺伝子をHEK293細胞に強制発現させ、3MGA およびGAの細胞内への移行について検討した。その結果、GAは腎尿細管細胞内へはトランスポーターを介しては輸送されないのに対して、3MGAはOAT1、OAT3、OATP4C1で輸送されることを明らかにした。偽アルドステロン症の発症に深く関わる11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ2は尿細管上皮細胞内に発現していること、GAおよび3MGAは血液中では大部分がアルブミンに結合しておりトランスポーターを介さずには細胞内へは移行しにくいことから、偽アルドステロン症発症にはGAではなく3MGAが深く関わることが予想され、事前に血液中3MGAをモニタすることで副作用発症を予防できる可能性を示唆する結果が得られた。 さらに、血液中および尿中の3MGAを簡便に測定するため、3MGAを認識するモノクローナル抗体を作成し、ELISA法による3MGAの定量方法の構築を試みたが、定量の正確性においては今後さらなる検討を要する結果となった。
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