研究課題/領域番号 |
23790750
|
研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
岩田 直洋 城西大学, 薬学部, 助手 (50552759)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 糖尿病 / 一過性脳虚血 / 酸化ストレス / 霊芝菌糸体培養培地抽出物(WER) / HMGB-1 |
研究概要 |
本研究の目的は、糖尿病(DM)に一過性脳虚血を併発した時におこる脳梗塞悪化のメカニズムを明らかにするとともに代替医療を目指す為に、機能性食品摂取による予防・治療への有用性を解明することとした。 糖尿病と脳虚血の両疾患において酸化ストレスの関与に注目し、医薬品の代替として疾病の予防を目的とした機能性食品をこれまでに探索してきた。30種類以上の天然物の中から霊芝菌糸体培養培地抽出物(Water-Soluble Extract from Culture Medium of Ganoderma lucidum Mycelia:WER)が有効であることを明らかにしてきた。また、両疾患併発における障害悪化のメカニズムの一つに核内タンパク質HMGB-1(high mobility group box-1)が関与していると想定し、HMGB-1活性化に作用するサイトカインなどの発現についてin vivoにおいて解析するとともにWERの脳保護効果を経時的に確認した。 その結果、正常血糖(non-DM)と比較してDMでは、虚血処置3時間および24時間後の梗塞巣および神経症状が顕著に悪化した。さらに、免疫組織染色法の結果から、擬似手術群の糖尿病態の脳皮質ではnon-DMと比べてIL-1β、TNF-αの発現が有意に増大し、虚血処置3時間後ではさらに発現が増大した。同様にCOX-2、iNOS、ICAM-1の発現も経時的に増大した。一方、DMおよびnon-DMのWER投与群では、梗塞巣の減少やアポトーシスの有意な抑制、さらには炎症性サイトカイン等の発現低下が認められた。以上のことからDMラットの脳では炎症反応が惹起されており、虚血再灌流時にはこの反応がさらに増強され、脳障害が悪化するものと考えられた。これに対して、WERは炎症性関連因子等の発現を抑制することにより脳保護効果を示すことが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施項目として以下の3項目を計画しており、(1)PC12細胞を用いた擬似虚血環境下における機能性食品(WER)の効果の評価、(2)糖尿病態ラットに一過性脳虚血を併発した時における脳障害悪化のメカニズム解析、(3)両疾患併発ラットの脳におけるHMGB-1の細胞局在性とWERによる効果の評価、について実施している。 平成23年度では、当初(1)の項目を行う計画にあったが必要な物品および機器などの関係上、次年度以降に実施する項目とし、(2)と(3)の項目について実施した。 (2)では、研究実績概要に示した結果を得ることができ、また今後使用する検体の採取まで終了した。今後は、障害悪化のメカニズムとして想定しているHMGB-1の関与を明らかにするとともに、正常と病態との間におけるシグナル経路と活性化メカニズムについて明らかにする予定である。 (3)では、WERによる脳保護のメカニズムを明らかにすることを目的にWER(1 g/kg/day、2週間、p.o.)投与群を作製し、免疫染色、Western blotおよびRT-PCR用の検体採取まで終了した。次年度以降にその検体を用いて、HMGB-1に対するWERの効果を詳細に検討する予定である。 また、糖尿病および一過性脳虚血の併発における脳障害の増悪に対して、改善効果を持つWER中に含まれる活性物質の探索・同定についても実施しており、現在、抗酸化活性を指標として7つのフラクションに分画した。次年度に単一成分の同定を行う予定である。以上のことから、おおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
虚血による障害の悪化にHMGB-1が関与していることから、in vitroにおいて擬似虚血環境であるOGD(oxygen-glucose-deprived)および擬似酸化ストレスである過酸化水素処置下におけるHMGB-1の細胞局在性、または、WERの添加によるHMGB-1の細胞質移行あるいは細胞外放出に対して抑制効果を示すか経時的に検討するとともに、WERの有効濃度を明らかにする。その具体的方法として、MTT assay、HMBG-1の細胞質移行を免疫染色法、細胞外への放出はWestern blot法を採用する。OGD環境は、平成23年度購入した窒素ガス発生装置において、glucose freeの培地で1%酸素を4時間負荷する計画である。 in vivo実験では、糖尿病と一過性脳虚血併発による脳障害悪化のメカニズムに対するHMGB-1の関与を明らかにするため、HMGB-1経路におけるシグナル分子の発現を正常血糖と糖尿病態群とで比較する。また、WERによる脳保護メカニズムを明らかにするために平成23年度実施・採取した検体を用いて解析する。ラット脳組織切片を作製し、皮質部位におけるHMGB-1の細胞質への移行を免疫染色法を用いて解析し、HMGB-1の細胞外放出をWestern blot法により解析する。また、HMGB-1放出によるシグナル活性をRT-PCR法およびWestern blot法により解析する。さらに、WERが薬剤と代替可能であることを明らかにするために、脳保護作用が認められているエダラボンなどの薬剤をポジティブコントロールとして、WERとの比較を行う。 さらに、WERに含まれる活性物質を同定することを目的にこれまで分画してきた7つのフラクションを用いて、HPLCやNMRなどによる候補物質の構造決定まで詳細な解析を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は、実施項目の順序に変更等が少しあり、当初の申請より繰越金が認められた。そのため次年度において繰越金を加えた使用計画を以下のようにした。 in vitroとして細胞培養に用いる消耗品Poly-L-Lysine coated dishおよびピペットなど(300千円)、チャンバースライド(60千円)、血清(200千円)、抽出・PCR試薬(150千円)、プライマー(10種×各5千円)、抗体(6種×各54千円)、薬剤(40千円)などを申請する。 また、in vivoにおけるHMGB-1の活性化には、IL-1βやTNF-αといったサイトカインが関与しているため、虚血後の経時的な変化を血漿を検体としてELISA(120千円)により測定する。また、メカニズム解析として平成23年度採取した検体を用いて、HMGB-1とその受容体(RAGE、TLR2/4)によるシグナル経路解析のために抗体(上記抗体以外に2種類×各54千円)、その他消耗品などを計上する。
|