研究課題/領域番号 |
23790750
|
研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
岩田 直洋 城西大学, 薬学部, 助手 (50552759)
|
キーワード | 糖尿病 / 一過性脳虚血 / 酸化ストレス / 霊芝菌糸体培養培地抽出物(WER) / HMGB1 |
研究概要 |
本研究の目的は、糖尿病(DM)に一過性脳虚血を併発した時におこる脳梗塞悪化のメカニズムを明らかにするとともに代替医療を目指す為に、機能性食品摂取による予防・治療への有用性を解明することとした。 前年度では、DMラットの脳において炎症反応が惹起されており、虚血再灌流時にはこの反応がさらに増強され、脳障害が悪化するものと考えられた。これに対して、霊芝菌糸体培養培地抽出物(Water-Soluble Extract from Culture Medium of Ganoderma lucidum Mycelia :WER)は、炎症性関連因子等の発現を抑制することにより脳保護効果を示すことを明らかにした。 そこで今年度は、DMラットにおける虚血性脳障害悪化の一因に核タンパク質であるhigh mobility group box-1(HMGB-1)の局在変化が関与しているか否かを検討した。その結果、DM群では、虚血早期に神経細胞の核内に存在するHMGB-1が細胞外に放出され、周辺細胞に対して炎症・細胞死を誘導することが想定された。 一方、WERによる脳保護作用メカニズムは明らかではないため、PC12細胞に対して様々な刺激によるHMGB-1放出を検討した結果、擬似酸化ストレスである過酸化水素処理した細胞では、細胞内のROSが増大し、同時にHMGB-1の細胞質移行と細胞外放出が認められた。また、WERを前処理した細胞では、ROS産生が有意に低下し、HMGB-1の細胞質移行も低濃度から抑制された。以上より、WERは細胞外からの酸化ストレスに対して保護的に作用し、細胞内におけるROSの生成を抑制するとともにHMGB-1放出を低濃度から抑制することが明らかになった。また、TNF-αやrHMGB-1の処置により移行/放出されたHMGB-1をWER高濃度処置によって抑制することが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施項目として以下の3項目を計画しており、①PC12細胞を用いた擬似虚血環境下における機能性食品(WER)の効果の評価、②糖尿病態ラットに一過性脳虚血を併発した時における脳障害悪化のメカニズム解析、③両疾患併発ラットの脳におけるHMGB-1の細胞局在性とWERによる効果の評価、について実施している。 平成23年度では、当初①の項目を行う計画にあったが必要な物品および機器などの関係上、24年度以降に実施する項目として変更していた。そこで今年度は、計画通り①の項目について実施するとともに研究実績概要に示した結果を得ることができた。 また、②では23年度までに検体の採取まで終了していたため、今年度ではその検体を用いて実験を行い、障害悪化のメカニズムとして想定しているHMGB-1の関与を検討した。その結果、正常と病態との間で虚血再灌流後においてHMGB-1の挙動に相違が認められたことから、次年度では、シグナル経路と活性化メカニズムについて詳細に明らかにする予定である。 ③では、WERによる脳保護のメカニズムを明らかにすることを目的にWER(1 g/kg/day、2週間、p.o.)投与群の作製を23年度において終了している。次年度にその検体を用いて、HMGB-1に対するWERの効果を詳細に検討する予定である。 また、糖尿病および一過性脳虚血の併発における脳障害の増悪に対して、改善効果を持つWER中に含まれる活性物質の探索・同定についても実施しており、現在、抗酸化活性を指標として2つの単一成分の同定を行うことができた。以上のことから、おおむね順調に進行していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
虚血による障害の悪化にHMGB-1の局在変化が関与していることから、今年度は、in vitroにおいて擬似酸化ストレスである過酸化水素処置下におけるHMGB-1の細胞局在性、または、WER添加によるHMGB-1の挙動に対する抑制効果を明らかにし、さらにその局在変化に関与する因子であるTNF-αやrHMGB-1処置下における解析も行った。しかし、擬似虚血環境であるOGD(oxygen-glucose-deprived)処置においては、今年度、条件検討で終了したため、次年度で実施する予定である。OGD環境は、平成23年度購入した窒素ガス発生装置において、glucose freeの培地で1% 酸素を4時間負荷した後、再酸素条件で24時間培養する計画である。評価における具体的方法として、細胞生存率(MTT assay)、活性酸素種に対する効果(DCFH-DA)、HMBG-1の局在変化については蛍光免疫染色法を採用する。 in vivo実験では、糖尿病と一過性脳虚血併発による脳障害悪化のメカニズムに対するHMGB-1の関与を詳細に検討するため、HMGB-1経路におけるシグナル分子の発現を正常血糖と糖尿病態群とで比較する。平成23年度実施・採取した検体を用いて、HMGB-1の局在変化を免疫染色法あるいはWestern blot法により解析する。また、正常と病態との間で虚血再灌流後のHMGB-1の挙動に相違が見られたため、WER投与による脳保護効果がそれに影響するか否かを検討する。 さらに、今年度に探索・同定したWERに含まれる活性物質を用いて、実際に脳保護を有するか検討するため、一定期間実験動物に経口投与した後、一過性脳虚血処置を行い、TTC染色や神経症状による評価法を用いて、梗塞巣の改善を検討する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、計画していたシグナル伝達解析に用いる抗体等の購入を実験の進行上、次年度に見送ったため当初の申請より繰越金が認められた。そのため最終年度である平成25年度において繰越金を加えた使用計画を以下のようにした。 in vitroとして細胞培養に用いる消耗品Poly-L-Lysine coated dishおよびピペットなど(300千円)、チャンバースライド(60千円)、血清(200千円)、抽出・PCR試薬(150千円)、プライマー(10種×各5千円)、抗体(6種類×各60千円)などを申請する。 また、メカニズム解析として平成23年度採取した検体を用いて、HMGB-1とその受容体によるシグナル経路解析のために抗体(上記抗体以外に4種類×各60千円)、その他消耗品(150千円)などを計上する。
|