これまでに我々は、漢方方剤「香蘇散」の抗鬱様作用メカニズムの一つとして、視床下部orexin-A (OX-A) および海馬neuropeptide Y (NPY) 神経系の制御が深く関与することを報告している。しかし、それらの神経ペプチドが相互にどのように制御し合っているかを示す報告はされていない。そこで平成24年度では、海馬培養細胞を用いて、OX-A添加によるNPY産生への影響とその詳細なメカニズムについて検討した。以下にその結果を示す。 ラット海馬由来培養細胞(以下、培養細胞)には、NPYおよびOX-A受容体であるOX1Rの発現が確認された。その培養細胞にOX-Aを添加したところ、時間および用量依存的なNPY産生が認められた。OX-A添加によるNPY産生量は、OX1Rのアンタゴニスト同時添加によって阻害された。OX-A添加によってNPY産生・分解に関わる酵素群のmRNA発現量に変化が認められた。 以上の結果から、OX-Aは海馬に存在するNPY産生細胞からのNPY産生を促進させる作用を有していることが示唆された。これらは、海馬におけるOX-A/NPY神経ネットワークの存在を示すものであり、香蘇散の抗鬱様作用メカニズム解明の一助となるかもしれない。
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