これまでに,SARTストレス(慢性ストレス)形成過程において,視床下部の室傍核(PVN)や背内側核(DMH),さらに延髄の淡蒼縫線核(RPa)で神経活動の異常が認められ,ストレス応答に重要な視床下部-脳下垂体-副腎皮質系(HPA系)と視床下部-交感神経-副腎髄質系(SAM系)による制御が破綻している可能性を示唆する結果を得た。今年度はこれらストレス応答関連3領域における神経活動に対するジアゼパムの効果を検討した。また,SARTストレスによる血清コルチコステロン濃度(CORT)の変化とPVNにおけるコルチコトロピン放出因子(CRF)作動性神経の変化についても検討した。ジアゼパムはSARTストレスによるうつ・不安,痛覚過敏,消化管運動亢進などに顕著な改善効果を示す抗不安薬であり,ストレス負荷期間中1日1回経口投与した。神経活動の変化は神経活性の指標の1つであるc-Fosタンパク質を使用した。 SARTストレスマウスでは, PVN,DMHおよびRPaの神経活動は非ストレスマウスに比べ有意に低下していたが,CORTはいずれのマウスにおいても変化が認められなかった。また,PVNにおいてはCRF作動性神経の神経活動に有意な低下が認められた。ジアゼパム投与により,これらストレス応答関連3領域PVN,DMHおよびRPaの神経活動は非ストレスマウスでは変化せず,SARTストレスマウスで有意に上昇した。 これらの結果から,ジアゼパムはHPA系やSAM系に関与するPVN,SAM系に関与するDMHおよびRPa におけるSARTストレスによる神経活動の低下を回復させることで,HPA系やSAM系の正常化を促し,SARTストレスによる種々の症状を改善することが示唆された。また,DMHは血圧調節に関与する部位でもあり,SARTストレスによるDMHの神経活動低下は低血圧の一要因となっていることが考えられた。
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