研究概要 |
潰瘍性大腸炎の発症には遺伝的素因が関与していることが疫学的研究から明らかになっている。2009年に行ったゲノムワイド相関解析によって、いくつかの日本人潰瘍性大腸炎の感受性遺伝子が新たに報告された。しかし、ゲノムワイド相関解析では相関を示す遺伝子多型を決められた多型セットから抽出するだけであり、実際に相関を示している多型がその多型とは限らない。また、その多型が疾患と相関するかどうかをみているだけであり、疾患の病態や病型、治療反応性などとの関連は不明である。本研究では、その中の一つであるSLC26A3遺伝子について、その相関がどのようなものであるかを明らかにし、感受性を示すメカニズムを探ることを目的とした。 遺伝子解析をより詳細に行うため、SLC26A3遺伝子の上流にあるrs2108225について、臨床データや他の感受性遺伝子の遺伝子型とともに検討を行った。対象は東北大学病院を受診した潰瘍性大腸炎患者260人と、健常人ボランティア654人とし、まず各群での対立遺伝子頻度の違いについてカイ二乗検定で検討を行った。その結果、対立遺伝子Cの頻度が、患者群で69.6%、健常人群で64.1%であり、有意に患者群で頻度が多いことが確認された。(p値0.0262,オッズ比1.28)。また、他の感受性遺伝子候補との関連を見るため、これまでに報告したNKX2.3遺伝子、HLA-B*52遺伝子について、それぞれのリスクキャリアとそれ以外に分けて相関解析を行った。その結果、NKX2.3遺伝子については、NKX2.3遺伝子リスクキャリアのみにおいてSLC26A3が相関を示した(p=0.00472,オッズ比=1.44)。また、HLA-B*52については、B*52キャリアと非キャリアでSLC26A3対立遺伝子頻度が有意に異なり(p=0.0212)、B*52キャリアでは相関を示さず、非キャリアでのみ相関を示した(p=0.00167,オッズ比=1.69)。このことから、SLC26A3は、他の感受性遺伝子との相互作用がある可能性が示唆された。
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