膵炎に関連する遺伝子変異としては、これまでトリプシンとその阻害蛋白が報告されているが、これらの遺伝子異常を認めるのは一部の患者であり、遺伝子異常により慢性膵炎の病態のすべてを説明することは困難である。一方、感染性膵炎の原因として報告されている病原体として、ムンプス、コクサッキー、サイトメガロなどのウイルスや、マイコプラズマ、アスペルギルスなどがある。ムンプスウイルスは唾液腺および膵外分泌腺への親和性が高く、またコクサッキーB群ウイルスも膵組織への親和性があるとされる。これらのウイルス感染は主に、一部の稀な急性膵炎症例として報告されており、慢性膵炎との関連については明らかではない。代表的な炎症疾患である慢性胃炎や慢性肝炎の原因が、それぞれピロリ菌や肝炎ウイルスであったように、慢性膵炎についても何らかの感染性微生物が関与している可能性も考えられる。メタゲノムは、さまざまな環境からDNAを一挙に抽出し、その配列をすべて決定することで、その環境中に存在する生物のゲノム情報を一挙に得ようというものである。2005年より市販が開始された次世代シーケンサーは、従来のキャピラリーシークエンサー数百台分のデータ生産量を1台で賄えるとされ、メタゲノム解析への応用が期待される。平成23年度は、この次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析を行い、基本となるゲノム配列のリシークエンスを行った。慢性膵炎症例7例を対象にHiseq2000を用いて解析を行い、Total read 12億以上の十分量のデータが得られた。ヒトゲノムreference配列へのマップはいずれも99.54~99.58%と良好であり、配列同定に問題はないと考えられた。今後は慢性膵炎の手術標本もしくは超音波内視鏡下針生検にて採取した膵組織を用い、Hiseq2000によりメタゲノム解析を行い、膵炎と関連する病原体候補を同定する予定である。
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