胃の前癌病変である腸上皮化生の発生にはホメオボックス遺伝子Cdx2の誘導発現が関与していると考えられているが、その誘導発現機序は未だ解明されていない。我々はH.pylori感染胃粘膜における腸上皮化生発生にもこのCdx2の誘導発現が関与していると考え、免疫学的な観点から解明しようと試みている。H23年度の研究により、ヒト胃癌上皮細胞株AGS、GCIYおよびマウス正常胃粘膜上皮細胞株GSM06にCagA陽性H.pyloriを感染させることでCdx2の 発現がNF-κBの活性化を介して誘導されることが確認できた。さらに、自然免疫関連分子であるNOD1はこの誘導発現に対して抑制的に働くことを見出した。 そこで、H24年度はCdx2の発現を制御するNOD1の下流分子の同定を試みるとともに、in vivoでのH.pylori感染によるCdx2の誘導発現に関して検討した。以下にH24年度の研究成果を記す。 NOD1の下流にある分子のTRAF3に対するsiRNAおよび強制発現系を用いた検討から、NOD1はTRAF3を介してNF-κBの活性化を抑制し、Cdx2の発現を抑制する可能性が示唆された。また、H23年度に作成していたNOD1をノックダウンしたGSM06の安定細胞株を用いた検討から、胃癌上皮培養細胞株のみならず正常胃粘膜上皮細胞株においてもH.pylori感染によるCdx2の発現誘導に対してNOD1が抑制的に働くことが確認された。さらにH.pyloriを経口感染させ、1年間飼育したマウスの検討からNOD1ノックアウトマウスの胃において腸上皮化生が生じることが判明し、その胃粘膜上皮細胞はCdx2を核に発現し、また細胞質にMUC2を発現していることを発見した。これらの結果から、実際の生体内においてもNOD1はH.pylori感染による胃の腸上皮化生発生を抑制している可能性が示唆された。
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