研究課題
これまで、DSS誘導腸炎モデルにおいて、Ncx-KOマウスでは、野生型と比べて高感受性および大腸組織では炎症像を認めている。またNcx-KOマウスの腸管上皮では、透過性が亢進しているが、免疫染色法によりe-cadherinの発現が低下していた。一方Ncx-KOマウスの腸管では腸管神経節の増加を認めているが、一酸化窒素合成酵素(NOS)のタンパク発現について調べたところ、野生型と比較して神経系NOS(nNOS)の発現が上昇していた。そこでNcx-KOマウスに、NOS阻害剤である L-NAMEを投与し、腸管上皮の透過性について調べたところ、野生型と同じレベルまで改善した。またL-NAME投与下における腸管上皮のe-cadherinの発現について調べたところ、Ncx-KOマウスでは投与前と比べ、発現の増強がみられた。このようにL-NAME投与下においては、腸管上皮の透過性の改善とe-cadherinの発現増強がみられたにも関わらず、DSS誘導腸炎モデルにおいてはL-NAME投与群ではさらに感受性が増強した。さらに、nNOS特異的な阻害剤L-NPA投与下において、DSS誘導腸炎モデルを作製したところ、同様の結果が得られた。一方で、iNOS特異的な阻害剤1400wを皮下注射投与し、DSS誘導腸炎モデルを作製したが、投与有無において差を認めなかった。 以上の研究により、Ncx-KOマウスでは腸管上皮バリア機構の異常と腸管上皮細胞のE-cadherin発現減少、過剰な腸管神経細胞数とnNOS発現増加が明らかになった。一方、NOS阻害剤投与においてE-cadherin発現および腸管上皮透過性は改善したものの、DSS誘導腸炎は悪化した。このことは腸管神経細胞由来のNOが上皮透過性に関しては低下させているが、腸炎発症に関しては保護的に機能していることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、Ncx-KOマウスにおける腸炎自然発症とDSS誘導腸炎モデル高感受性が、腸管神経過剰によるNO過剰の影響であることを明らかとした。腸管におけるNOの役割についても順調に解析が進んでいる。
今後の研究計画においては、腸管神経細胞由来NOの炎症性腸炎発症における役割についてNcx-KOマウスを中心に解析を行う(A)。次に腸管神経細胞過剰状態における腸管免疫機能についての解析を行う(B)。A.炎症性腸炎発症における神経細胞由来NOの役割についての解析:(A-1)L-NPA投与後における腸管組織の詳細な解析 (A-2)nNOS由来NOの細菌等に対する役割についての解析(1)腸管組織における免疫担当細胞による炎症性サイトカイン産生について(2)腸内細菌叢について(3)抗生物質投与下におけるDSS誘導腸炎モデルについて検討 (A-3)nNOS由来NOの腸管上皮バリア機構への影響に関する解析B.腸管神経と腸管免疫細胞との関わりに関する解析:(B-1)Ncx-KOマウスにおける腸管免疫担当細胞の機能について(1)腸管の感染防御において自然免疫機構を担当するマクロファージや樹状細胞について(2)パイエル板IgA陽性B細胞や、粘膜固有層IgA形質細胞、IgA分泌機構について(3)制御性T細胞(4)Th17細胞、Th9細胞 (B-2)Kif26a-KOマウスを用いた解析 (B-3)腸炎発症における他の神経伝達物質の関与についての解析
消耗品費として、化学薬品、抗体、プライマー等、また、マウスを用いた研究が中心となるため、マウス購入、飼育等に使用。旅費として、日本免疫学会に発表の予定。
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