研究課題
本研究の目的は、肝細胞癌の発癌・進展過程におけるエピジェネティック異常の意義を明らかにすることである。癌細胞にはDNAメチル化やヒストン修飾の異常が数多く蓄積しているが、これらが発癌のどの段階で生じ、また癌の進展過程にどう関与しているかはほとんどわかっていない。癌におけるエピジェネティック異常の意義の解明は肝癌発癌と進展の分子生物学的機序の理解につながるだけでなく、この異常を標的とした治療法の開発など臨床応用にも重要な意味をもつ。平成23年度に実施した研究により、以下のことが明らかとなった。1)Outer Noduleとこの内部より生じたInner NoduleのDNAメチル化解析を行った結果、多くのDNAメチル化異常はOuter Noduleの段階ですでに獲得していることが明らかとなった。このことは、DNAメチル化異常の多くが癌化の初期段階で関与していることを示唆している。2)染色体コピー数変化を比較した結果、Outer NoduleからInner Noduleへと進展する過程で、多くの染色体異常が加わっていた。このことは、肝癌の進展過程でゲノム不安定性に伴う遺伝子異常が付加されていることを意味している。3)一部の症例においては、染色体コピー数の変化が少なく、DNAメチル化の変化が数多く見られた。以上を総合すると、肝癌の進展過程において、ゲノム異常とエピゲノム異常がそれぞれ生じることで悪性化が進んでいる可能性が考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
1)肝癌結節内結節(Nodule-in-Nodule)におけるメチル化プロファイル肝癌の結節内結節(Nodule-in-Nodule)の、Outer nodule、Inner noduleおよび非癌部肝組織のメチル化プロファイルをInfinium HumanMethylation27 BeadChip(イルミナ社)を用いて解析を行った。2症例はInner noduleが複数存在したため、それぞれのOuter noduleを解析した。いずれのサンプルも良好な解析結果が得られ、Inner noduleで観察された異常メチル化には、Outer noduleにすでに存在していたものが数多く含まれていることが明らかとなった。また、変化する遺伝子群についても、GO(Gene Ontology)に基づいた遺伝子機能アノテーション解析より特徴的なグループを見出すことに成功した。肝癌臨床検体100例のメチル化プロファイルと比較することで、多くがOuter Noduleのパターンを継承しながら、Inner Noduleを形成していることを明らかにできた。2)肝癌の進展段階における遺伝子発現変化とプロモーター領域のメチル化の関係性Outer nodule、Inner noduleおよび非癌部肝組織の遺伝子発現プロファイルをGeneChip Human Genome U133 Plus 2.0 Array(アフィメトリクス社)を用いて解析した。Outer noduleよりInner noduleが出現する過程での遺伝子発現変化に、遺伝子プロモーターのメチル化変化がどの程度関連しているかを検討したところ、必ずしもDNAメチル化の変化と遺伝子発現のすべての遺伝子で相関しているわけではないことが明らかとなった。
1)癌進展に関与する染色体コピー数変化や点突然変異の解析 初年度の解析で見られた、プロモーター領域のメチル化変化を伴わない遺伝子発現変化には、一部、染色体コピー数の異常や点突然変異に起因するものもあると考えられる。したがって、まずは、こうした遺伝子において、Inner noduleに生じた染色体の欠失あるいは増幅領域に位置するものがどの程度存在するか解析を行う。染色体コピー数はメチル化マイクロアレイのシグナル強度より推定することができる。癌組織と非癌部組織のシグナル強度比を算出し、これをゲノム上のポジションにしたがって移動平均をとることで、低解像度ながら染色体コピー数を推定しうる。点突然変異については、p53やβ-cateninなどの肝癌での既に報告のある遺伝子のほかに、国際癌コンソーシアム(ICGC)などで新たに判明する変異データも適宜参照しながら、変異頻度の高い遺伝子や発現解析から示唆されるシグナル経路に関わる遺伝子を中心に解析を行う。2)肝癌進展過程におけるシグナル経路異常の解明以上の、Nodule-in-Noduleでの解析から見出したエピジェネティック異常、ジェネティック異常および遺伝子発現の変化を統合し、肝癌の進展過程におけるシグナル経路の異常を明らかにする。関連するシグナル経路を代表する遺伝子セットは、米国Broad研究所(MIT)が提供するMSigDB(Molecular Signatures Database)を参考にする。
次年度で行う点突然変異の網羅的解析には、次世代シーケンサーを用いたエクソーム解析が必要であり、主たる研究費をこれに使用する。あわせて、次年度までの解析で得られた成果を、国内・海外の学会で発表するとともに、学術論文の発表を行う。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (3件)
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