研究課題/領域番号 |
23790776
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
森尾 純子 (秋山 純子) 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 医員 (70581297)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 腸管上皮 / 大腸炎 / Notchシグナル / Notchリガンド / 杯細胞 |
研究概要 |
(1)正常腸管及び炎症腸管粘膜におけるNotchリガンド分子の発現解析:マウス腸管におけるNotchリガンド分子の発現を解析し、以下の成果を得た。1)マウス正常腸管組織におけるNotchリガンド分子のmRNA発現をRT―PCR法で解析した結果、DLL1,DLL4,JAG1の発現を認めた。免疫染色による発現の解析を行った結果、DLL1、DLL4はいずれも腸管上皮に発現している事が確認された。さらにDLL1及びDLL4陽性腸管上皮細胞につき、増殖・分化マーカーの共発現を二重染色により解析した結果、i)いずれも幹細胞マーカーLgr5との共発現は確認されなかった。ii)一部の分画はKi67陽性であった。iii)杯細胞マーカーMUC2と共局在する細胞分画を認め、杯細胞形質を獲得しているものと考えられた。2)DSS腸炎モデルを作製し、炎症粘膜に於けるDLL1及びDLL4陽性細胞の動態を解析した結果、炎症・再生過程の粘膜でDLL陽性上皮細胞数が著増している事が明らかとなった。(2)Notchリガンド発現の臓器選択的・単一リガンド破綻による生体表現型の解析:腸管上皮特異的プロモーターT3bの制御下に遺伝子欠損を誘導可能なマウス系統を樹立し、腸管上皮特異的に各リガンド分子を欠損させた際の生体表現型の解析を行い、以下の結果を得た。1)腸管上皮特異的にDLL4及びJAG1を欠損したマウスは正常の発達・成長を示し、腸管上皮の細胞構成に於いても明らかな表現型を認めなかった。2)腸管上皮特異的にDLL1を欠損したマウスでは、十二指腸~上部空腸にかけ、野生型と比較し約50%の杯細胞数増加を認めた。上記の各成果は、腸管上皮の恒常性維持のみならず、炎症粘膜における再生応答に於いてもDLLリガンド分子群がNotch活性化を通して機能的役割を担っている可能性を示す重要な知見であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の成果として、マウス腸管上皮に於いて機能を発揮し得るNotchリガンドとしてDLL1及びDLL4を同定した。これは研究代表者らがヒト腸管組織の解析により得られた知見と一致するだけでなく、本研究計画に於いてマウス腸管をモデルとして解析を進める際の基盤を成す知見として重要な成果であると考えている。また、DSS腸炎モデルの解析においては、再生応答時にDLL陽性腸管上皮細胞の著しい増加が誘導されるという画期的知見を得ており、上皮再生におけるNotch活性化機構の一端を明らかにしている。腸管上皮特異的なNotchリガンド欠損マウスの解析に於いては、DLL1の欠損により杯細胞の増加が誘導される一方、DLL4では同様の現象が誘導されない事から、DLL1とDLL4が単に機能的Redundancyを保ちつつ発現しているのではなく、一定の機能的棲み分けを保ち共に腸管上皮に発現していることを示唆する知見を得ている。本研究を通して得られたこれらの知見は、腸管上皮におけるリガンド依存的Notch活性化に新たな視点をもたらすものであり、次年度以降の解析により腸管上皮の恒常性維持と再生応答におけるNotchシグナルの機能的役割の解明に更なる画期的成果が大いに期待できる。今後、細胞系譜特異的な機能の解析やヒト疾患における成果の検証といった課題は残るものの、一部は当初計画を超える成果を得ており、概ね順調に進行していると評価することが妥当と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの成果により、腸管上皮に於ける機能的NotchリガンドとしてDLL1とDLL4の重要性を確認した。したがって、次年度以降はDLL1及びDLL4発現細胞の性状解析、動態及び生体に於ける機能的棲み分けとredundancyに焦点を当て、解析を進めたい。具体的には、1)正常腸管におけるDLL1及びDLL4発現細胞の細胞集団を増殖・分化マーカー毎に分類し、定量的評価を進める。2) DLL1及びDLL4発現細胞が幹細胞形質を有する知見は得られなかったものの、Ki67陽性である中間前駆細胞の形質を有し得る知見を得ている事から、Hes1及びMath1といった前駆細胞マーカーとの共局在も解析対象とする。3)前記の性状解析をDSS腸炎モデルにおける炎症粘膜において経時的に解析を行い、DLL1及びDLL4発現細胞の動態を、性状面からも解析を加える。4)さらにクリプト単位におけるDLL1及びDLL4発現細胞の局在の差異についても更なる解析を加える。これらの解析に基づき、腸管上皮特異的なDLL1及びDLL4欠損マウスについても更なる検討を進めるため、5)DLL1/DLL4ダブルノックアウトマウスの表現型解析をT3bプロモーターのみならず、LGR5プロモーターや細胞系譜特異的プロモーターによりCreリコンビナーゼを発現する系を用いて更なる解析を加える。6)前記により作出されるノックアウトマウスにつき、DSS腸炎モデルにおける臨床的表現型や再生応答について解析を加える
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度以降は当初計画に則り、以下の課題を追求する予定である。1)Notchリガンド発現の臓器選択的・複数リガンド破綻による生体表現型の解析:前年度までに作出した各Notchリガンド分子における腸管組織特異的欠損マウス用い、様々な組み合わせのNotchリガンド欠損マウスの作製を進める。作出したマウスにつき組織学的な解析を加え、単一リガンド欠損による各々の表現型と比較検討する事により、リガンド分子相互のヒエラルキー及びRedundancyについても解析を加える。さらに各リガンド分子における腸上皮幹細胞特異的欠損マウス(Lgr5-CreERT2マウス)についても様々な組み合わせのNotchリガンド欠損マウスの作製を進める。作出したマウスにつき組織学的な解析を加え、単一リガンド欠損による各々の表現型と比較検討する事により、リガンド分子相互のヒエラルキー及びRedundancyについても解析を加える。2) マウス大腸炎モデルにおけるNotchリガンド分子の選択的・誘導性破綻による生体表現型解析:次年度以降に作出を計画している誘導性Notchリガンド欠損マウスを用い、DSS誘発性大腸炎モデルの発症期、腸炎極期及び組織再生・回復期の各ステージに於けるNotchリガンド欠損の結果、個体の病勢、臨床指標に与える影響と粘膜再生・再構築に与える影響を経時的に解析を加える。また1)において樹立したダブルノックアウトマウス、及びトリプルノックアウトマウスにつき、単一リガンド欠損マウスと同様の検討を行い、各リガンド間のヒエラルキー及びRedundancyの有無についても大腸炎の病期毎に経時的に解析を加える。これら結果をまとめ、成果を発表する。従って、研究費は遺伝子型・組織学的解析に関わる消耗品、及びマウス飼育・系統維持が主な支出費目となる予定である。
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