研究課題/領域番号 |
23790777
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
岡本 隆一 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 寄附講座教員 (50451935)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 腸管上皮初代培養 / 炎症性腸疾患 / オルガノイド / Notch活性化 / 細胞移植 / 粘膜再生 |
研究概要 |
本年度は研究計画に基づき、以下の解析を行った。(1)腸管上皮幹細胞可視化による上皮培養技術の確立:当初研究計画に予定していたNotch活性化レポーターマウスによるEGFPの検出に加え、幹細胞特異的遺伝子であるLgr5のプロモーター制御下にEGFP-CreERT融合タンパクを発現するLGR5-EGFP-CreERTマウスを用い、以下の成果を得た。1)小腸及び大腸を安定して培養し得る独自の技術を確立したのみならず、LGR5-EGFPを指標とするライブイメージングにより、腸上皮幹細胞を豊富に含むオルガノイドとして長期培養が可能である事を明らかとした。2)上記方法により培養したオルガノイドにNotch活性化を阻害するγ-セクレターゼ阻害薬を添加することにより、著しい杯細胞分化が誘導可能である事を明らかとした。即ち、本研究にて確立した培養法で維持されるオルガノイドは、恒常的なNotch活性化により未分化な形質が維持されている事を明らかとした。(2)培養正常腸管上皮オルガノイドの組織再生機能の解析:上記方法にて体外にて維持したマウス大腸初代培養細胞オルガノイドにつき、腸炎モデルへの移植により組織再生修復能を検討し、以下の成果を得た。1)培養正常腸管上皮オルガノイドをDSS腸炎モデルマウスに経肛門的に投与することにより、腸管上皮を構成するクリプトとして長期生着することを確認した。2)同オルガノイドはDSS投与により誘発された粘膜欠損・潰瘍面に選択的に生着し、潰瘍面を被覆する様に細胞増殖と移植細胞由来のクリプトが構成されることを明らかとした。3)上記に移植により、DSS腸炎による体重減少の早期回復が得られ、腸管粘膜修復が炎症性腸疾患治療に貢献し得る可能性を示した。上記成果は、腸管上皮初代培養オルガノイドが上皮再生治療へも応用可能なツールであることを示した重要な成果であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度研究に於いて、当初計画通り、腸上皮幹細胞分画を高純度で単離・培養する技術の確立に成功した。また、同分画の増殖能・未分化状態の維持がNotch活性化に著しく依存していることを改めて検証した。これらの成果は腸管上皮再生におけるNotch活性化の重要性を高めるのみならず、幹細胞機能を賦活・制御する際の分子標的となり得ることを明確に示した重要な知見である。今後はNotch活性化を維持するための培養条件の最適化や、ヒト腸管におけるNotch活性化細胞の単離・培養技術の確立といった課題は残すものの、当初計画に於ける主たる課題は概ね達成したもの考えている。さらに本年度は、当初計画を前倒しし、培養初代腸管上皮による組織再生能を、生体疾患モデルへの細胞移植により評価を試み、上記培養細胞が生体内に長期維持可能な幹細胞の形質を維持したまま生着可能であることを明確に提示した。さらに上記にて確立した培養腸管上皮の細胞移植技術により、わずか1個のホスト幹細胞から細胞移植治療が可能となるのみならず、同移植によりマウス大腸炎モデルの臨床経過を改善し得るという画期的知見を得ている。従って、本研究の成果をヒト腸管へと展開していくことにより炎症性腸疾患患者の臨床経過を改善する細胞移植治療法の開発が充分に期待できる、画期的基盤技術を確立した、他に類を見ない成果を得たものと考えている。更なる移植条件の最適化等に未だ課題を残すものの、一部は当初計画を超える予定で既に成果を得ており、概ね順調に進行していると評価することが妥当と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、腸管初代培養オルガノイドを疾患治療リソースへと応用する際には、高効率・選択的な培養条件の追求と確立が必須であり、既存の低分子化合物のスクリーニングのみならず、天然物リガンド等のライブラリーを用いて本培養系の至適条件を更なる追求が必要である。さらに、炎症性腸疾患患者への応用を視野に入れるため、確立した技術がヒト腸管上皮へと展開可能であるか、探索を進める必要が有る。また、同目的のため、in vitro及びin vivoにおけるNotch活性化を高効率かつ簡便に定量評価することが必須であり、現有する系の更なる至適化も併せて課題とするべきである。また当初計画に則り、Notch活性化上皮細胞の表面抗原プロフィールの探索を行い、Notch活性化を可視化していないマウス腸管から、同等の機能を有する細胞の単離・培養技術の確立を行う必要が有る。同技術の確立により、遺伝子改変技術を介さない幹細胞の選択的培養と細胞移植治療が運用可能となる。併せて、移植法とその効果を最適化するため、マウス大腸炎モデルにおける投与のステージ、投与細胞数、投与回数、等につき各々最適な条件の探索を行う必要が有る。更に、最適化した条件の下で、培養条件の違い(培養期間・各種培養添加物・マトリックス・低分子化合物添加の有無)による再生機能の違いを比較検討し、再生機能賦活に最適な培養条件・培養期間等の側面からも移植条件の最適化を試みる。これら基礎条件の十分な検討を行い、ヒト腸管再生への技術的基盤としたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は当初計画に則り、以下の課題を追求する予定である。1) Notchシグナル活性化維持・誘導腸管上皮培養系の構築:既に我々が樹立している腸管上皮初代培養系を種々の条件で検討し、最適化を追求する。更に、Notch活性維持または誘導能を有する低分子化合物のスクリーニングを標準培養条件下で行い、化合物添加によるNotch活性化調節の可能性についても追求を加える。2)培養Notch活性化腸管上皮細胞による大腸炎治療効果の解析:腸管上皮初代培養系において培養したオルガノイドを用い、これを大腸炎モデルマウスに再移入する事による臨床効果に検討を加える。デキストラン硫酸の経口投与による大腸炎誘発モデルを用い、これに培養オルガノイドを種々の条件下で再移入(経肛門的投与)し、各種指標を評価する。再生機能賦活に最適な培養条件・培養期間等の側面からも移植条件の最適化を試みる。3) 新規表面マーカーによる非可視化Notch活性化細胞の単離法開発:Notch活性化上皮細胞の可視化系を用い、Notch活性化腸管上皮の表面抗原プロフィールを解析し、Notch活性化を可視化していないマウス腸管から、同等の機能を有する細胞の単離を試みる。単離した細胞群につき、形質の評価とともに大腸炎モデルマウスに於ける大腸炎治療効果・粘膜修復能につき、検討を加える。従って、研究費は細胞培養及び解析に関わる消耗品、及びマウス飼育・系統維持が主な支出費目となる予定である。
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