本年度は研究計画に基づき、以下の解析を行った。 1. Notchシグナル活性化維持・誘導腸管上皮培養系の構築:腸管上皮幹細胞特異的遺伝子であるLgr5のプロモーター制御下にEGFP-CreERT融合タンパクを発現するマウスを用い、以下の成果を得た。1) 小腸及び大腸を安定して培養し得る独自の技術を確立し、腸管上皮幹細胞を豊富に含むオルガノイドとして長期培養が可能である事を明らかとした。2)上記により培養したオルガノイドにNotch活性化阻害薬(γ-セクレターゼ阻害薬)を添加する事により、著しい杯細胞の増加を誘導可能である事を明らかとした。3) 更に同マウスを用いて幹細胞特異的にNotchリガンドDll1並びにDll4を欠損させることにより、Notch活性化阻害薬と同様の著しい杯細胞の増加と増殖帯の消失を誘導可能である事を明らかとした。4)これらNotch活性化に必須と考えられるリガンド分子群は腸管上皮における異なる細胞集団に発現し、各々異なる役割を担っているものと考えられた。 2. 培養正常腸管上皮オルガノイドの組織再生機能の解析:上記方法にて体外培養したマウス大腸上皮オルガノイドを腸炎モデルへ移植し、以下の成果を得た。1) 大腸上皮オルガノイドをDSS腸炎モデルマウスに経肛門的に投与すると、粘膜欠損・潰瘍面に選択的に生着し得ることを確認した。同様の移植・生着は、単一の幹細胞から樹立した大腸上皮オルガノイドでも同様に可能であった。2)DSS腸炎の臨床経過について、上記の移植により早期回復が得られ、腸管上皮移植が炎症性腸疾患治療に有効である可能性を示す個体レベルでの知見を得た。 上記成果は、腸管上皮オルガノイドが上皮再生治療に有用であり、その培養増殖過程にDll1またはDll4を介したNotch活性化が必須の役割を担っている事を示す重要な成果であると考えている。
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