研究課題/領域番号 |
23790780
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
喜多村 晃一 金沢大学, 医学系, 助教 (70378892)
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キーワード | がん / ウイルス / B型肝炎 |
研究概要 |
我が国の肝がん患者は20%がB型肝炎ウイルス(HBV)を保有しているが、ウイルスによる発がんがなぜ起こるのかは依然として明らかではない。HBVゲノムは宿主因子であるAIDやAPOBEC3Gによって高頻度突然変異(hypermutation)が導入されるが、本申請研究ではこの自然免疫としてのHBV hypermutation導入機構がウイルスのみならず宿主ゲノムへもダメージを与え、結果として肝がん発症の引き金となる可能性を検討している。 本年度はHBV及びDuck HBV(DHBV)においてウイルス複製の鋳型となるcccDNAを選択的に増幅するrolling circle amplification (RCA) 法を用いて、DHBV cccDNAの詳細な解析を行った。昨年度までの解析により核内でcccDNAがAPOBEC3Gによって遺伝情報が破壊されるほど高頻度に変異導入を受け、UNGがこれをキャンセルするという結果を得ていたが、この条件下でのcccDNAをRCA法を用いて単離することで、実際にこのウイルスDNAの遺伝情報が破壊されウイルス複製能が低下していることを実験的にも明らかにした。この成果は論文として学術誌への採択が決定している。またAIDの強制発現でDHBV cccDNA量が低下しこれがUNGの不活性化で妨げられることを示した。すなわち肝細胞核内においてAID-UNGを経由するDNA断片化機構が存在すると考えられる。この機構によりウイルス量は低下すると考えられるが、一方でB型肝炎からの肝がん患者のゲノムからはウイルスDNA断片が検出されることから、核内でのcccDNA断片化がもたらすインテグレーションへの影響についてさらなる解明が重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
cccDNAはHBVの長期感染及び宿主ゲノムへのインテグレーションによるがん化の観点から極めて重要なウイルス中間体であるが、その成立機構や宿主因子の関与はほとんど解明されていない。本研究でのDHBVを用いたin vitro解析から、APOBEC3G-UNG経路及びAID-UNG経路によるcccDNAへの作用の分子メカニズムが明らかになってきた。AID-UNGによるウイルスDNA断片化機構は肝細胞ゲノムへのインテグレーション頻度にも影響を与える事象だと考えられる。また当初計画の通り、HBV感染モデルマウス作製(ウイルス発現プラスミドDNAの肝臓への導入)技術において、ウイルスDNAの複製とAPOBEC3Gによる高頻度突然変異導入を確認している。in vivo実験の手技が確立できたので、次年度では関連因子の遺伝子改変マウスそれぞれに対して同様の操作を行い、その差を比較検討することが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
in vivoの感染モデルマウス作製が確立できたので解析を進める。次年度では、当初計画の通りに各遺伝子改変マウスに対してウイルス発現プラスミドDNA導入を行い、HBVウイルスゲノム解析、宿主ゲノム解析、病理解析の結果を比較する。また近年新たにHBV感染実験が可能な細胞株が樹立され、HBV cccDNAの解析が比較的容易になったので、これまでに得られたDHBVでの知見をHBVに外挿した解析を行い、in vivoモデルと合わせて検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度と同様、本研究継続に十分な研究機器の環境が、所属研究室及び所属機関の共通機器施設に整っているので、新たな設備備品費は計上しない。マウスへのウイルスDNA導入のために多量のプラスミド精製を行うので精製キットを購入する。解析では変異検出のためのPCRとDNAシークエンシングを多数行うため、Taqポリメラーゼや合成オリゴヌクレオチド、シークエンス試薬に加え、共通機器利用費がかかる。新たなin vitro実験で用いる細胞培養に必要な血清、成長因子を購入する。国際的に研究成果を情報発信するために、10月に中国で行われるInternational Meeting on Molecular Biology of Hepatitis B Virusesへの参加を予定し、外国旅費の経費を計上する。
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