大腸癌においてWntシグナルが亢進することは多数の症例で認められ、Wntシグナル伝達経路の亢進が、発癌において重要であると考えられている。われわれは大腸癌で高発現している遺伝子の1つとしてDkk4を見い出し、これに着目して研究を開始した。臨床生検検体および培養細胞を用いた検討により、多くの大腸癌においてDkk4が高発現しており、悪性化に伴い発現が増加していた。このDkk4の高発現は、大腸癌で認められるWntシグナルの亢進によりもたらされると考えられた。 今回は、Dkk4の発現とその臨床的意義を調べるため、外科手術を行った進行大腸癌の臨床検体を用いDkk4のmRNA発現量と術後の再発について検討した。その結果Dkk4が高発現している症例は術後の再発率が高い傾向を認めた。他施設から大腸癌におけるDkk4の発現と化学療法抵抗性の関連を検討した報告もあり、Dkk4は癌の悪性度診断や治療抵抗性を予測するマーカーとしての有用性が期待されている。癌におけるDkk高発現のメカニズムと臨床的意義について更なる検討が必要であると考えられた。 さらに大腸癌における癌遺伝子の変異の全体像を把握するためにIon Ampliseq Cancer Panelを用いて大腸癌、胃癌、肝癌、膵癌の培養細胞株について46癌遺伝子、739癌関連変異の頻度を検討した。多種の細胞株において多様な変異が検出されたが、今後は同様の検討を大腸癌の臨床検体を対象とし、Laser Microdissection systemを用いて癌遺伝子の変異について網羅的解析を行う予定である。これにより、Wntシグナルのみならず、大腸癌の遺伝子全体の変異と臨床的像について検討していきたい。
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