研究課題/領域番号 |
23790809
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
川上 文貴 北里大学, 医療衛生学部, 助教 (50511896)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 消化管粘膜障害 |
研究概要 |
本年度は、(1)消化管粘膜上皮細胞と神経細胞の酸化ストレスに対する感受性の違いおよび(2)神経細胞におけるLRRK2の新規相互作用分子の探索を行った。研究成果を以下に示す。(1)大腸癌細胞株のColo201細胞と神経系細胞株のヒト神経芽腫細胞(SH-SY5Y)を用いて、消化管粘膜上皮系の細胞と神経細胞における細胞ストレスに対する感受性の違いを検討したところ、過酸化水素(H2O2)およびインドメタシン(IND)の薬剤に対して、神経細胞は腸管粘膜上皮系細胞よりも脆弱であることが分かった。さらに、SH-SY5Y細胞においてH2O2およびIND添加によりp53タンパク質量とその転写活性が増加することが分かった。このことから、H2O2およびINDにより発現誘導されるp53下流分子を解析したところ、Baxは変動しなかったが、p21/WAF-1のタンパク質量が増加することが分かった。(2)LRRK2を過剰発現させたSH-SY5Y細胞を用いて、LRRK2と相互作用する分子を免疫沈降法により解析した。その結果、微小管結合タンパク質の1つであるタウタンパク質がLRRK2と相互作用することが分かった。さらにこの結合は、チューブリン存在下で著しく増加されることが分かった。また、LRRK2はチューブリン存在下でタウタンパク質のThr181をリン酸化し、タウの微小管結合能を減少させることが明らかとなった。さらに、LRRK2を過剰発現させたSH-SY5Y細胞において神経様突起の長さが短くなることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の当初計画どおり、LRRK2の消化管における発現分布を調べるために、ラットの食道から大腸までの組織切片を作成し、抗LRRK2抗体を用いた免疫染色により解析したが、LRRK2の発現を検出することが困難であった理由として、組織の固定法が考えられた。本年度は、カルノア固定法により作成した組織切片を用いた。これまで、この固定法を用いた組織においてLRRK2以外のキナーゼ分子の発現を検出することに成功しているため、本年度の解析においても同様の方法を用いた。しかしながら、この固定法は非常に強力な固定法であるため、分子量の大きいLRRK2は、非常に強く変性・架橋されたため、抗LRRK2抗体と反応しなかったのではないかと考えられる。そこで次年度は、より温和な固定法であるホルマリン固定あるいは、凍結切片を用いてLRRK2の免疫染色を行う予定である。また、本年度行った解析により、消化管粘膜上皮系細胞よりも神経細胞の方が薬剤あるいは酸化ストレスに対して脆弱であることを明らかにできた。さらに、神経細胞におけるLRRK2の新たな相互作用分子および基質分子として微小管結合タンパク質のTauを同定することができた。Tauは、神経細胞の軸索形成および軸索輸送に関わる分子であり、本年度の解析において、LRRK2はTubulin依存的にTauのThr181を直接リン酸化すること、およびLRRK2はTauのリン酸化を介して神経細胞の神経突起の退縮を誘導することを明らかにできた。以上のことから、本年度の研究は、一部を除き当初計画以上の成果を上げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の行った消化管組織におけるLRRK2の発現分布の解析において、LRRK2の検出が困難であったことから、今後、凍結切片やホルマリン固定法を用いて再度検討を行う予定である。また、LRRL2のノックアウトマウスやトランスジェニックマウスを用いて消化管粘膜障害モデル作成し、消化管神経の形態変化や機能変化の解析を行っていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、主に動物組織や細胞を用いた免疫染色法による解析を行う予定である。そのため、各種抗体をはじめとする免疫染色解析に必要な試薬を購入する必要がある。また、次年度、新たに導入する機器設備はないため、研究費は試薬や消耗品の購入に使用する予定である。
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