研究課題
平成23年度は、all-trans-レチノイン酸(ATRA)によるレプチン受容体(LEPR)遺伝子発現誘導メカニズムについて検討を行った。その結果、クロマチン免疫沈降アッセイおよびルシフェラーゼレポーターアッセイによって、転写開始点から約2000塩基対上流にレチノイン酸受容体応答配列が存在し、ATRAによるLEPR遺伝子発現誘導に直接関与していることが明らかとなった。 また我々は以前ATRAが肝臓STAT3活性化を伴いインスリン抵抗性を改善することを見出している。そこでATRAを混餌投与したインスリン抵抗性マウスの肝臓におけるSTAT3活性化を、組織免疫染色によって検討したところ、ATRA投与群では肝組織全体にSTAT3の核強染像が得られた。一方で、非投与群においては脂肪沈着が無い領域においてのみSTAT3の核内移行を認めた。このことはSTAT3が肝細胞の糖・脂質代謝やインスリン感受性に関与している可能性を示唆している。 そこで、次に肝細胞におけるSTAT3標的遺伝子の探索を行った。今回は不死化肝細胞株TLR3細胞を使用し、IL6処理によってSTAT3活性化を誘導し、クロマチン免疫沈降を行った。回収されたSTAT3結合クロマチンDNA断片およびIgGによるネガティブコントロールサンプルを次世代シークエンサーによって網羅的解析を行い、STAT3が結合するマウスゲノム上の151領域を同定した。この151領域から5000塩基対以内に存在する転写領域を調べたところ、138の転写領域を同定した。この138転写領域から73転写領域と、ATRA投与マウス肝臓の網羅的遺伝子発現解析結果で発現上昇していた14遺伝子について、IL6処理による発現変化をreal-time RT-PCR法により検討したところ、今回27個がSTAT3活性化により発現誘導されることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
上記の通り、現在までに、レチノイン酸による肝レプチン受容体発現誘導メカニズムの解明と、肝細胞における新規STAT3標的遺伝子の同定を終えている。今後、レプチン受容体を介したSTAT3活性化メカニズムの解明と新規インスリン感受性増強剤スクリーニングシステムについての検討を進めていき、平成24年度で終了できる見込みがついたため。
今回同定された27転写領域から、インスリン感受性増強作用を有する転写領域を同定する。この転写領域の上流からインスリン感受性増強剤スクリーニングシステムを構築し、化合物ライブラリーによるスクリーニングを行う。同時に、各種シグナル伝達阻害剤によってレプチン受容体を介したSTAT3活性化メカニズムを検討する。
発現ベクターとレポーターアッセイ用試薬、培養試薬、化合物ライブラリー等を購入する予定である。 また海外での学会発表と、論文化のために使用する予定である。
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Hepatology
巻: in press ページ: ―
10.1002/hep.25798