本研究では、FGFRシグナルによる胃癌細胞株のCD133の発現制御についての検討を行った。胃癌細胞株にFGFRチロシンキナーゼ阻害薬を作用させCD133の発現変化を検討したところ、FGFR2増幅胃癌細胞株は薬剤暴露によりCD133の発現が著明に亢進した。FGFRチロシンキナーゼ阻害薬は、FGFR2増幅胃癌細胞に対して用量および時間依存的にCD133の発現をmRNAレベル、タンパクレベルで亢進させることを明らかにした。さらにFGFRの下流シグナルがCD133の発現に及ぼす影響ついて検討を行った。PI3K阻害薬はCD133の発現変化を認めなかったが、MEK阻害薬はCD133の発現を亢進させた。JNK阻害薬、P38MへPK阻害薬はCD133の発現を変化させなかった。次に、FGFR-MEKシグナルの下流転写因子のCD133発現制御について検討した。FGFRチロシンキナーゼ阻害薬およびMEK阻害薬はともにCD133の発現を亢進させると同時に転写因子であるFOS、FOSL1分子のmRNA発現を低下させ、c-Jun分子のmRNA発現を亢進させていた。それぞれの分子の転写活性を測定したところ、mRNAの発現と相関する結果が得られた。さらにFGFR-MEKシグナルの下流転写因子についてsiRNAを用いて検討した。FosのsiRNAの検討では、FGFRチロシンキナーゼ阻害薬の作用によるcD133の発現変化に有意な変化は認められなかったのに対して、FosL1のsiRNAでは、FGFRチロシンキナーゼ阻害薬によるCD133の発現の亢進を低下させる傾向が認められた。これらの結果より、FGFR2増幅胃癌細胞株におけるCD133の発現は、FGFR-MEKシグナルにより制御されており、胃癌幹細胞の治療標的となると考えられた。
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