研究概要 |
今回の研究計画として、新たな内臓知覚の細胞レベルでの客観的評価法の確立と, 抗ストレスホルモンであるオキシトシンの内臓知覚過敏に対する効果を検討することを目的とした。以下に実績概略を示す。 1、ラット内臓神経活性化指標の確立 最近、細胞間伝達物質の一つであるp38 MAPK (p38)が侵害刺激により活性化されるとの報告が体性痛の領域でなされた。しかしながら内臓侵害刺激におけるp38の関与に関しては不明であった。そこで、ラット胃内にバルーンで圧刺激を加えた後に、支配領域の脊髄後根神経節(DRG)を摘出し,p38活性化の指標であるリン酸化p38に対する抗体を用いて免疫染色を施行したところ、p38が刺激強度に応じて活性化が生じることを確認した。さらにp38活性化阻害剤であるSB203580を髄腔内に投与したところ、侵害刺激に対する痛み反応が有意に減弱した。従って、胃侵害刺激に伴う痛み反応にp38の活性化が関与していることが分かった。現在、逆流性食道炎モデルにおいてもp38の活性化が神経活動の指標となり得るかどうか、さらにオキシトシンの投与によりそのp38の活性化に変化があるのかどうかを検討中である。 2、ヒト内臓知覚評価法の確立 ヒト食道内に胃酸と同濃度の塩酸を還流し、その間の胸やけ症状をスコア化し評価する食道内酸還流試験を行った。その際、酸還流試験の前後で経鼻内視鏡を用いて下部食道粘膜を採取する方法を考案した。この手法により、食道に酸が暴露することで、粘膜内にどのような分子が発現し、さらにその分子が胸やけ症状の発現と関わっているのかどうかを検討する事ができるようになった。現在、オキシトシン投与により、胸やけ症状に変化があるのかどうか、また食道粘膜内の分子に変化があるのかどうかにつき検討中である。
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