研究課題
我々は、心不全患者において循環血中ミッドカイン(MDK) 濃度が重症度に応じて亢進していることを報告し、また血中濃度高値患者では心不全治療に抵抗性を示すことをこれまで報告してきた。(シリーズI) そこで、培養心筋細胞を用いて、MDKによる心筋細胞障害に与える役割を明らかにするために、MDK刺激による心筋細胞内の細胞内シグナル伝達のメカニズムを解明した。培養心筋細胞のMDK刺激によりMAPKのリン酸化が亢進していた。また、同様にMDK刺激によってAKTのリン酸化が亢進しており、心不全状態における心筋障害進展に関与していることを明らかにした。(シリーズII) 心不全の発症と進行に与えるMDKの影響を明らかにするために、大動脈縮窄術による圧負荷マウスモデル(TACマウス)を作成した。Sham群に比べ、TAC群では腫瘍臓器でのMDK発現がタンパクレベル、mRNAレベルで亢進しており、循環血中のMDK濃度の上昇が示唆された。さらに、心臓特異的MDK過剰発現(MDK-TG)マウスに同様に大動脈縮窄術を行い、心肥大や心機能の推移の検討を行った。野生型マウスに比べ、MDK-TGマウスでは、TAC後の心筋組織における心筋細胞肥大、心臓線維化、血管周囲線維化が同様にMDK-TGマウスでは亢進していた。TAC後の心臓組織におけるERK1/2, AKTのリン酸化が亢進しており、心房性利尿ペプチドをはじめとする胎児型遺伝子の発現や、結合組織 成長因子をはじめとする線維化に関与する遺伝子発現が、野生型マウスに比べ亢進してた。これらによって、MDK-TGマウスによる心肥大、心機能の低下が早期に進行していた。このことは、心不全の発症と治療を開発するうえで重要な治療戦略ターゲットとなることが示唆されると考える。
2: おおむね順調に進展している
(シリーズ I) 現在、MDKの心筋細胞内シグナルを解明しつつある。さらに、MDKの作用する選択的受容体の解明を行うために様々な阻害薬を用いて2-3種類の受容体を明らかにしている。しかし、はたして選択的に結合しているのか、間接作用なのかを今後明らかにしていく必要がある。(シリーズII) 現在、TACによる心機能障害がMDKによって増悪することを明らかにしたが、MDKが直接心臓に作用するのでなくAngIIなどの上昇を介して作用している可能性がある。引き続き、違うモデル動物を用いて2012年度は検討を続けていく。
相対的PTP活性化薬dephostatin, Src阻害剤 SC204303を用いて、培養心筋細胞でのMDKによるMAPK, AKT亢進の抑制効果を検討する。また、pcDNA3-PTPを過剰発現させ、MDKによるRSK, MAPK活性亢進の抑制効果を確認する。現在想定している3種類の受容体阻害薬を用いて、同様にMDKで培養心筋細胞刺激を行い、MAPK, AKTのリン酸化亢進抑制を確認していく。さらに、MDKによる胎児型遺伝子発現亢進と心筋細胞肥大を培養実験でも同様に明らかにしていく。MDKによるクロマチンH3K9のリモデリングと転写因子の活性や胎児型遺伝子発現をluciferase assayや Chip assayで評価する。MDK-TGマウス、MDK-KOマウスでTAC手術やAngII注入モデル、慢性腎不全モデルを作成し、Src, p90RSK, PKC, MAPK, GSK3の活性、胎児型遺伝子発現、病理組織、心臓カテーテルや心エコー検査による心機能等の検討を行う。さらに、ヒストンH3を中心に、心臓におけるクロマチンリモデリングの検討を行う。
MDKによる胎児型遺伝子発現亢進を明らかにするために、試薬MDK, Luciferase Reporter Assay Kit, PCR法に関わる試薬を必要とする。受容体を同定するために、阻害薬のほか、タンパクリン酸化を評価するための抗体を用いる。同定した受容体のノックダウンにアデノウイルスを用いたShRNAを作成するために、Adeno-X™ アデノウイルス精製キット、アデノウイルスタイターキットを使用する。その他、培養細胞に用いるmedium, Cardio TACSTM In situキットを使用する。これらの購入に研究費を使用する。また、動物飼育費用、培養心筋細胞の採取費用、プラスチック器具、ガラス器具の購入費用、試薬類の購入費用に研究費を使用する。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件)
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