研究課題/領域番号 |
23790834
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 君枝 東京大学, 保健・健康推進本部, 助教 (30508065)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 循環器・高血圧 / 動脈硬化 / 血管外膜 / vasa vasorum / 血管周囲組織 |
研究概要 |
血管外膜を標的としたプラーク安定化と退縮の検討 申請者は、若年高脂血症マウス(ApoE-/-)の腹部大動脈周囲に、徐放化した血管新生因子(塩基性線維芽細胞増殖因子)を留置すると、外膜微小血管(vasa vasorum:VV)の増殖および炎症細胞集積を認め、動脈硬化病変が早期に形成されることを報告した。本研究では逆に、血管新生抑制薬(スラミン)を留置した場合、VV増殖を抑制し、動脈硬化病変形成抑制や退縮を認めるかどうか検討する。 スラミンをポリ乳酸と混合した徐放剤を作成し、上記実験と同じ手法を用いて実験を行った。ApoE-/-マウス(オス)に7週令から高脂食を投与し、20週令で腹部大動脈周囲にスラミンを留置する手術を施行した。この手法を30匹に施行したが、ほとんどのマウスは術後早期に死亡した。コントロールとしてPBSを注入したマウスも早期に死亡したため、手術侵襲による死亡と考えた。この研究では、動脈硬化病変の安定化や退縮の観察を目的としており、病変を持たない若年マウスの使用では目的を達成できない。そこで、7週令から高脂食を投与したAPoE-/-の大腿動脈を50週令で採取して観察したところ、動脈硬化病変およびVVの形成を認めた。(過去の報告ではマウスでは400μm以上の血管にのみVVが認められると報告されており、さらに微小な血管にもVVが認められることは新知見である。)この結果より、大腿動脈を実験に用いることとし、40週令のマウスの右大腿動脈周囲にスラミン(粘着性が低いためPluronic 127 gelと混合)、左大腿動脈周囲にgelのみを留置し、50週令で両側大腿動脈を周囲組織と一塊にして採取し、トマトレクチンによる微小血管染色を用いて動脈硬化病変とVVを観察した。現在までに、スラミン留置側でVV増殖および病変形成が抑制される傾向を得ており、今年度も継続して実験を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この研究では、1)血管外膜を標的としたプラーク安定化と退縮の検討、2)血管外膜微小血管および炎症細胞集積が動脈硬化病変を拡大させる機序の検討、3)血管周囲組織とVV、動脈硬化病変の関連の検討、を計画している。実験1)については「研究実績の概要」欄に記載のごとく、実験手技および用いるマウスの週令・血管部位の検討が必要であり、予備実験に時間を要した。実験2)は緑色蛍光蛋白(GFP)陽性マウスを用いる実験計画であり、GFPマウスを入手し繁殖を開始した。しかし、現在まだ実験使用に十分な匹数を確保できておらず、現在繁殖を継続している。研究開始前の計画では、実験2)を1)より先に開始する予定であったが、前述の理由により、実験1)に先に着手した。実験3)については、高齢ApoE-/-マウスを用いる実験であり、7週令から高脂食を投与した40週令および50週令のマウスの大動脈および大腿動脈の検体採取を継続して施行しており、24年度に解析を施行する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
実験1)血管外膜を標的としたプラーク安定化と退縮の検討については、現在施行中の実験手技を継続してサンプル数を増やす。採取した血管を用いて組織標本を作製し、血管外膜VVおよび動脈硬化病変を観察する。マクロファージやリンパ球に対する免疫染色を施行し、微小血管周囲に集積する炎症細胞の性質を同定する。 実験2)血管外膜微小血管および炎症細胞集積が動脈硬化病変を拡大させる機序の検討については、実験使用に十分な数のGFPマウスを得られたところで、マウスの腹腔にチオグリコレートを注入し、腹水からGFP陽性マクロファージを採取する。Pluronic 127 gelと混合し、若年ApoE-/-マウスの腹部大動脈周囲に留置し、高脂食を投与して飼育する。動脈硬化病変が形成され拡大する経過で、血管外膜に留置したGFP陽性細胞が、どのように病変に取り込まれるかを、経時的に観察する。 実験3)血管周囲組織とVV、動脈硬化病変の関連の検討については、高齢ApoE-/-マウスの動脈硬化病変を持つ血管を周囲組織と伴に採取したサンプルを用いて、病変周囲の脂肪組織の形態(白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞)や、炎症細胞集積やVV形成の偏在を観察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度の150万円は、40万円を旅費(海外1回30万円、国内1回10万円の学会旅費)、20万円を顕微鏡などの修理費、50万円を抗体などの試薬、10万円を消耗品、30万円をマウス購入費として使用する計画である。次年度使用額26,605円は、試薬購入費として使用する予定である。
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