動脈硬化病変を持つ血管では、外膜で増殖した外膜微小血管(vasa vasorum:VV)が新生内膜に侵入し、病変内に炎症細胞や脂質を送り込む。VVは病変の進展と伴に増殖するが、VV増殖の調節が、動脈硬化病変自体にも影響するかどうかは明らかでない。申請者は、若年高脂血症マウス(ApoE欠損マウス)の腹部大動脈周囲に、徐放化した血管新生因子(塩基性線維芽細胞増殖因子)を留置すると、VV増殖および炎症細胞集積を生じ動脈硬化病変が早期に形成されることを報告した。本研究では、血管新生抑制作用を持つスラミンを用いて、VV増殖抑制により、動脈硬化病変進展が抑制されるか検討した。先ず、高脂食で飼育した50週令ApoE欠損マウスの大腿動脈(femoral artery:FA)を観察したところ、VV増殖を伴う動脈硬化病変の自然発生を認めた。次に40週令ApoE欠損マウスの右FA周囲に、ポリ乳酸に含有した徐放化スラミンをPluronic F-127 gelに混ぜて留置し、左FAは対照としてgelのみを留置した。10週後にトマトレクチン潅流微小血管染色を施行後、両側FAを採取し病変面積およびVV数を計数したところ、スラミン投与側で病変の進展が抑制されており、病変を持つFAでは、新生内膜の厚さとVV数に正の相関を認めた。VV周囲には、マクロファージやTリンパ球など炎症細胞の集積を認めた。スラミンは増殖因子抑制薬であり、血管平滑筋細胞増殖やマクロファージによる炎症にも抑制作用を持つ。実際、免疫組織学的に検討すると、40週令ApoE欠損マウスのFA病変部位では、血小板由来増殖因子やプリン受容体なども発現を認めた。本研究では、スラミンの血管周囲局所投与により、VVおよび動脈硬化病変の進展抑制を認めたが、スラミンの多様な作用の影響が否定できず、今後、特異的に血管新生を抑制する薬剤を用いて評価する予定である。
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