研究課題/領域番号 |
23790835
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤生 克仁 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (30422306)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 炎症 / マクロファージ / 転写因子 |
研究概要 |
本研究計画では、心血管疾患と慢性腎疾患(CKD)の背景にある心臓と腎臓の臓器間相互作用(心腎連関)を制御する分子機構について、転写因子KLF5のネットワークに着目して解明し、解明された分子機構に介入することにより、心不全と慢性腎臓病、動脈硬化性疾患への新規治療法を開発することを目的としている。昨年度、集合管特異的KLF5ノックアウトマウスに心不全モデル、心筋繊維化モデルを作成し、野生型マウスと比較すると、心臓の繊維化、肥大、心不全の程度、生存率に差異が認められた。このことから、集合管上皮細胞は心臓に対して保護的に働いていると考えられた。次に、どのような分子が、腎臓の心臓への保護的役割を果たしているか同定するため、腎臓のRNA sequence, ChIP sequence, 血液中のタンパク網羅的検索、培養集合管上皮細胞の培養上清中のタンパクの網羅的検索から、因子Xを同定した。この因子Xは心不全時に腎臓から分泌され、心臓に作用し心臓に対して保護的に働いていることを同定した。この分子の作用は最終的に心筋肥大、心臓の繊維化を惹起するが、この心肥大や繊維化は心不全に対する適応現象として必要な変化であると結論づけた。次に、この同定した分子は心不全の新規治療法に使用できるかどうか検討した。腎臓集合管特異的KLF5ノックアウトマウスは、この分子Xの分泌が低下しているため、心不全を容易に惹起する。しかし、因子Xをこの心不全に問うよする補充実験をおこなうと、心臓の肥大、繊維化が回復し、心負荷に対する適切な適応現象が生じるようになり、生存率が回復した。さらに、この分子は心負荷時に交感神経活性化を介して分泌されるため、今後リコンビナント因子Xや腎臓選択的な交感神経の活性化が新規心不全治療となり得る可能性を示すこととなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究計画の中で、目標としていた腎臓由来で心臓の繊維化を促進する物質について同定することを達成した。さらに、この物質Xは腎臓由来で心筋肥大にも重要であり、心不全に対して効果があることが期待できる物質である。この物質を同定する方法として、本来の研究計画では、腎臓特異的KLF5ノックアウトマウスから、採取した培養細胞を用いる予定であったが、実際には、腎臓特異的KLF5ノックアウトマウス自体からの採血の分析から同定することが可能であったため、培養細胞の実験は行わずに同定が可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究計画では当初の予定通り、昨年度同定した因子Xの腎臓・心臓臓器連関において、個体における役割について検討する。因子Xのノックアウトマウスの入手が困難であるため、因子Xの中和抗体および、因子Xのリコンビナントタンパクを、心不全モデルに投与してその機能を同定する。また、因子Xの分泌様式を検討することが今後の治療戦略として重要であるが、今後分泌様式について詳細に検討する。さらに、どのような機構で腎臓由来の因子Xが心臓の繊維化、肥大をコンロトールしているかを詳細に検討し、今後新規治療法の確立の基盤を構築することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
腎臓特異的KLF5ノックアウトマウスは心臓の繊維化が少なく、心筋肥大も少ないため、心不全を発症しやすいが、このマウスに因子Xのリコンビナントタンパクを投与して、心不全を回避できるかどうか、同時に、心筋繊維化が回復するかどうか、心筋肥大が通常通り生じるかどうか検討する。さらに、因子Xの中和抗体を野生型マウスの心不全モデルに投与して、心不全がより悪化するかどうか検討して、腎臓由来の因子Xが心筋の繊維化、心筋肥大を制御して、心不全に保護的に作用しているかどうかを検討する。さらに、因子Xまたは、因子Xの上流因子に対するsiRNAを用いた検討を行い、siRNAの治療への応用を検討する。また、アンギオテンシンII投与モデルなどの心不全モデルで、腎臓から因子Xがどのような転写プログラムで発現調節されているか検討することが腎臓・心臓連関を検討する上で重要のため、心不全モデルにおいて、KLF5のChIPsequence, KLF5ノックアウトマウスを用いたサンプルにおいて、ヒストン修飾のChIPシーケンスによる網羅的検索によって、因子X以外のさらなる同様の効果を持つ因子の同定を行う。さらに、この腎臓における転写プログラムの変化が、染色体の距離の変化によって生じているかを検討するために、3Cシーケンスを行って検討する。
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