研究概要 |
本研究計画では、心血管疾患と慢性腎疾患(CKD)の背景にある心臓と腎臓の臓器間相互作用(心腎連関)を制御する分子機構について、転写因子Klf5のネットワークに着目して解析した。また、解明された分子機構に介入することにより、心不全と慢性腎臓病、動脈硬化性疾患への新規治療法を開発することを目的とした。 転写因子Klf5は腎臓集合間上皮細胞に特異的に発現しており、定常状態では構造蛋白であるカドヘリン1遺伝子の発現を正に調節していた。しかし、腎臓にストレスがかかるとKlf5は標的遺伝子を変更し、S100A8, S100a9などの炎症性分泌蛋白を正に転写するようになる。この結果、S100a8, S100a9は腎臓内に分泌され、炎症性マクロファージを腎臓に呼び込むことによって、組織炎症が生じることを明らかとした。 以上の結果から、これまで腎臓の炎症は腎臓糸球体を構成する細胞や尿細管を中心とする惹起機序が多数報告されているが、腎臓集合管上皮細胞が関与していることを初めて明らかとした。 転写因子Klf5の集合管上皮細胞における働きをin vivo クロマチン免疫沈降法を用いて詳細に検討すると、転写因子Klf5は安定時はカドヘリン1遺伝子のプロモーター領域に結合しているが、腎臓のストレスによって、その結合が消失し、Cebpaのpromoter領域に結合し、C/ebpaが誘導され、Klf5とC/ebpaは両者ともに、S100a8, S100a9のプロモーター領域に同時に結合し、協調的にS100a8, S100a9を誘導していた。S100a8, S100a9はヘテロダイマーを形成し、骨髄や脾臓から腎臓内へ炎症性単球をリクルートし、腎臓内で炎症性マクロファージに分化するのみ十分であることを明らかとした。さらに、リクルートされた炎症性マクロファージは主にIl-1bの産生を介して、腎臓尿細管細胞のアポトーシスを生じさせることによって、腎臓炎症を惹起していることを明らかとした。 また、腎臓由来の因子Xが心臓の恒常性維持に重要である結果を得た。
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