研究課題
本年度は心疾患におけるABCトランスポーターABCG2の役割について重点的に検討を行った。 まず、免疫組織染色にてABCG2が主に心臓の微小血管内皮細胞に発現していることを確認した。野生型マウス及びabcg2ノックアウトマウス(KOマウス)に圧負荷心肥大を誘導すると、KOマウスでは心肥大及び心リモデリングの増悪を認めた他、圧負荷後早期の心組織における酸化ストレスの増悪を認めた。KOマウスの表現型における酸化ストレスの重要性を評価するために抗酸化剤をマウスに投与した上で圧負荷心肥大を誘導すると、抗酸化剤の投与により、KOマウスにおける心筋細胞肥大及び心線維化は野生型マウスと同等にまで改善したため、KOマウスの表現型には酸化ストレスが重要な役割を果たしていることが分かった。圧負荷後の酸化ストレス産生系及び応答系遺伝子の発現を評価すると、酸化ストレス産生系遺伝子の発現は野生型マウスとKOマウスとで差を認めなかったが、酸化ストレス応答系遺伝子の発現はKOマウスで亢進しており、KOマウスにおける酸化ストレス応答系の機能障害の存在が疑われた。さらに、酸化ストレス応答系の評価から、内因性抗酸化物質であるグルタチオンがABCG2の機能発現に関与している可能性が示唆された。ヒト心臓由来微小血管内皮細胞を用いた細胞実験では、ABCG2が血管内皮細胞からのグルタチオン輸送を制御していることが分かった。さらに、血管内皮細胞の条件培地での単離心筋細胞の培養実験により、ABCG2によるグルタチオン輸送が酸化ストレスにより誘導される心肥大の抑制に重要な役割を果たすことが分かった。 以上から、心臓における酸化ストレス応答には、血管内皮細胞が重要な役割を果たしていることが分かった。そして、その機能を制御しているABCG2は心肥大の新たな治療標的となりうることが示唆される。 以上の成果は論文として報告した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目標は、心血管病におけるABCトランスポーターABCG2の役割及びそのメカニズムの解明である。現在のところ、心肥大の病態生理におけるABCG2の役割及びそのメカニズムについて解明することができ、本研究の目的の一つは達成できた。ただし、心疾患に重点をおいて解析してきたため、血管病における役割についてはまだ解明できておらず、今後の検討を要する。
これまで、一つの理論体系の確立を優先するため、心臓病におけるABCG2の役割の解明に重点を置いて研究を進めてきた。今後、血管病におけるABCG2の役割の解明を中心に研究を進めていく。
平成24年度は、血管病におけるABCG2の役割を中心に検討していく。それにあたり、以下の項目について、研究費の使用を計画している。 (1)野生型マウス及び遺伝子改変マウスの購入・管理・維持 (2)組織学的評価及び遺伝子発現・蛋白質発現の検出 (3)細胞実験 (1)については、血管病の動物モデルを使用した検証を行うため、マウスの購入・管理・維持の費用を要する。(2)については、血管病におけるABCG2の役割を検討するため、抗体・酵素・プライマーなどの消耗品の購入が必要である。(3)については、詳細なABCG2の発現調節メカニズム、トランスポーター活性制御メカニズム、ABCG2基質の検討のために必要な様々な実験系の稼働に、各種消耗品が必要となる。
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Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology
巻: 32 ページ: 654-661
10.1161/ATVBAHA.111.240341