研究課題
平成23年度末までに8例の免疫吸着療法を実施した。検証したい課題の第一点目はその治療の安全性ならびに有効性の検証であるが、治療は週二回、計五回行い、重症心不全患者で、高度の低血圧・低心拍出・肺うっ血(及びペースメーカーやICD植え込み術後状態)を有する状態であるにもかかわらず有害事象なく治療することができたことから、現時点において本治療の安全性は高いと判断している。 急性期治療効果に関して、症例数は少ないものの、本治療にて、抗β1受容体抗体およびIgG3分画の有意な減少効果を認め、左室駆出率や肺動脈楔入圧の早期改善効果と心不全症状の改善効果が観察されている。 拡張型心筋症は単一な病態として把握することは困難であるが、この様な自己免疫機序に焦点を当て、その臨床効果を直接的に評価している研究として、現時点で良好に進行していると判断している。 今後の研究の要点として、さらなる症例の蓄積とあわせて、本治療の中・長期的な心不全改善効果に関する評価、治療に反応する症例と反応不良の症例の比較検討があげられる。本研究に参加された患者については引き続き経過観察・臨床評価を続けている。また、本治療による心不全改善機序に関して、自己抗体に関する評価の他、サイトカイン、交感神経指標などといった多面的な解析が必要であると考えている。現在、それら指標(短期的評価のみならず、中・長期的な評価も加え)に関して解析をすすめている状況である。
2: おおむね順調に進展している
当初計画の、治療の実施とその有効性・安全性の評価に関して、これまでの8例に本治療を行っているが、高度の低血圧・低心拍出・肺うっ血(及びペースメーカーやICD植え込み術後状態)患者においても有害事象なく治療することができていることから、現在の所、本治療の安全性は高く、研究継続の支障とはならないと考えられる。症例は治療前・治療後の臨床的data、および血液等の試料は十分に収集されており、治療前後の比較以外にも、慢性期効果との比較にも有用と判断している。上記のような理由で、当初の目的の達成に関し、研究は概ね順調に経過していると考えている。
急性期治療効果判定に関して、治療前と治療1ヶ月以内で比較検討しているが、治療により抗β1-AR抗体は明らかに減少するものの心機能指標や心不全重症度の変化との相関関係が示されなかったことは抗β1-AR抗体の除去効果がすくなくとも急性期における心機能、心不全改善効果の主要な機序ではない可能性を示唆するものである。抗β1-AR抗体の除去がこの治療の主要な作用機序であるとするならば、この心刺激性の自己抗体を除去することは、慢性期の心機能改善に係わる機序としての説明は可能だが、少なくとも急性期の心機能改善効果としての説明は困難である。抗β1-AR抗体はDCMの発症、進展に関与していることは数多くの報告により明らかであるが、臨床的に実際のDCM患者において、それが数多くある抗心筋自己抗体の中での主因として関与しているのか、あるいは複雑な自己免疫機序のうちの副次的な修飾因子としての役割であるのかはまだ明らかではない。現在のところ本治療がどの抗体をどの程度吸着しどの抗体が最も心機能改善に関与しているかについて不明のままである。治療介入の有効性を考える上で免疫吸着療法の主因を担うさらなる機序の解明が重要である。この様に、免疫吸着による心機能改善効果の機序には不明な点が多い。サイトカインや酸化ストレスに関連した心不全改善への寄与も考えられ、症例を重ねると共に、基礎医学的なアプローチも踏まえ検討を進める予定である。
本研究費を用いて平成23年度から継続している治療を行い、安全性・有効性の評価を進める、更に1.免疫吸着療法の心不全改善効果の中・長期的な効果に関する基礎的、臨床的検討(一回のシリーズの治療にて自己抗体の除去効果はどの程度持続するのか、サイトカインや酸化ストレス等の指標はどのように変動し、どのくらいの期間臨床的な心不全改善に寄与するのか等)を行う。2.本治療により良好に反応する群と反応不良群の背景因子、諸検査指標の比較検討を行い、本治療のより詳細な作用機序を解明するとともに、本治療のより有効な患者群の特定に役立てる。平成23年度は当初計画で見込んだよりも安価に研究が完了したため、次年度使用額が生じた。
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