研究概要 |
まず、家兎における血管内皮リパーゼ(endothelial lipase, EL)過剰発現の影響に関する研究を開始している。今まで、我々はマウスモデルを用いて、ELの脂質異常症における役割を検証してきたが、マウスとヒトの脂質代謝系は相違点が多い。そこで比較的ヒトに類似した脂質代謝系を有する家兎にて研究を開始した。 ヒトEL過剰発現モデルとして、アデノウイルスを用いて、JW家兎にEL導入を行った。マウス実験においては、ヒトELアデノウイルスの強発現において、血清HDL値の著明な低下を確認できた。マウスの100倍の体重を有する家兎では、100倍量のアデノウイルス投与を試みた。その結果、一過性に家兎においても、最大70%のHDL-C値低下を確認できた。ついで、ELによって低下したHDLの質的評価を行った。予想に反し、EL過剰発現にてHDL-コレステロールは低下を認めたが、血清中のアポ蛋白A-I値はほとんど変化を認めなかった。その影響もあり、EL過剰発現後のHDL質的低下は、HDL-コレステロールが半減したにも関わらず、軽度であった。 EL阻害研究は難渋した。ELの活性部位を認識する抗体を数種類作成し、家兎に投与し、経過を見ているが現状EL活性の低下やin vivoにおける脂質変化は認められていない。 以上より、ヒト冠動脈疾患患者でEL発現亢進とそれに伴うHDL-コレステロール低下が報告されているが、ELは、HDLの質的変化に与える影響は軽微であることが確認された。今後は、EL阻害が動脈硬化進展に与える影響の検証のために、EL阻害抗体や、薬剤の発明による評価が必要である。
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