研究課題
重症心不全の予後は不良であり幹細胞移植による心筋再生療法は根治的な治療法として期待される。しかし幹細胞の心筋分化誘導効率は低く、臨床応用にあたっては問題となっている。近年ヒトの心筋細胞は少しずつ再生することが明らかとなったが、歴年齢の増加とともに再生する心筋細胞の割合が減少していると予想される。そこで本研究では加齢により老化したヒト心臓内幹細胞の機能低下の機序を解明し、心筋細胞への分化誘導効率を上げることで再生医療に必要な基礎的検討を行う。1.加齢によるヒト心臓内幹細胞の老化の確認、および心筋分化能・血管分化能の解析年齢別に作成したヒト心臓内幹細胞を解析した結果、加齢に伴い老化関連ガラクトシダーゼ染色は増加しテロメア長は減少していた。さらにヒト心臓内幹細胞の心筋分化能は加齢により低下したが、血管分化能は増加した。これらの結果からヒト心臓内幹細胞は加齢とともに老化しており、心筋再生のためにはより若年のヒト心臓内幹細胞の状態にする必要があることが判明した。2.ヒト心臓内幹細胞の老化による役割変化の機序解明上記1で確認した老化による役割変化の機序を解明するために、新生児および幼児ヒト心臓内幹細胞に対してDNAマイクロアレイを行った。その結果新生児ヒト心臓内幹細胞では心筋分化に関与する遺伝子が、幼児ヒト心臓内幹細胞では血管新生に関与する遺伝子が多く発現していた。これらの遺伝子群から治療介入の対象となる遺伝子を選ぶため、IGF1Rに注目した。新生児ヒト心臓内幹細胞でIGF1Rをknockdownすると心筋分化効率は低下し血管分化能は向上した。そこでDNA マイクロアレイで変化があり、かつIGF1R knockdownで変化がある遺伝子を同定した。 今後は同定した遺伝子の役割を明らかにし、心筋分化能の向上を検討する。
2: おおむね順調に進展している
現在まで研究は順調に進展しており、ヒト心臓内幹細胞の老化が心臓の再生能力に与える影響を明らかにした。実際に本研究の研究成果の一部は学会で発表し、一定の評価を受けている。
当初の研究計画に基づき以下のように研究を推進し、ヒト心臓内幹細胞による心臓再生医療の発展を目指して研究をさらに発展させていく。
今後は今まで同定した遺伝子を老化した心臓内幹細胞に導入し、心筋分化効率の向上を図る。またin vivoでの心筋分化率検討のためNOD-SCIDマウスを使用する。これらの細胞培養関連およびNOD-SCIDマウス購入費のため研究費を使用する。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件)
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