本研究では新生児と幼児ヒト心臓内幹細胞を対象として研究を行い、老化によるヒト心臓内幹細胞の役割変化を明らかにしてヒト心臓内幹細胞の心筋分化効率向上を試みた。 まず新生児心臓内幹細胞と幼児心臓内幹細胞を老化関連βガラクトシダーゼ染色やテロメア長で比較した。すると幼児心臓内幹細胞は新生児心臓内幹細胞と比べ、すでに生体内で老化していることが分かった。またテロメラーゼ活性に差はなく、心臓内幹細胞として扱った細胞は「前駆細胞」の性質をしていることが判明した。次に老化に伴うヒト心臓内幹細胞の役割変化が存在するか確認した。ヒト心臓内幹細胞の心臓再生・恒常性の維持における役割は、心筋新生および血管新生であると考える。そこで新生児および幼児心臓内幹細胞を心筋様分化および血管様分化させると、新生児心臓内幹細胞は心筋分化を、幼児心臓内幹細胞は血管分化を生じやすくなっていた。さらに老化することでヒト心臓内幹細胞の分化能が異なる機序を調べるためにDNAマイクロアレイなど用いた。その結果IGF1受容体が新生児ヒト心臓内幹細胞に多く発現しており、その発現が低下することで心筋分化から血管分化を生じやすい性質に変化していることを突き止めた。またIGF1受容体の下流にある転写因子TBX5やHHIPが、ヒト心臓内幹細胞の心筋分化および血管分化に重要であることが分かった。 本研究で用いたヒト心臓内幹細胞は、すでに心臓再生治療における細胞移植源として臨床試験で使用されている。そのヒト心臓内幹細胞の加齢による役割変化を明らかにしたことで、心筋分化効率効率を上げる選択肢が増える可能性があり、心臓再生治療の臨床応用につながるものと考える。
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