研究概要 |
ACh分解酵素阻害剤のひとつであるドネペジルは内在性のAChレベルの上昇を引き起こす。副交感神経活動の活性化による抗炎症作用の分子機序を明らかにするために、マクロファージ細胞株(Raw264.7)において、内毒素(Lipopolysaccharide, LPS)刺激により惹起される炎症反応に対するドネペジルの効果を検討した。その結果、ドネペジルはLPS誘導性の炎症反応(TNF-αやIL-1βなどの発現量の増加)に対する抑制効果を持つことが明らかになった。さらに、ドネペジルはLPS刺激後のNF-κBの核移行を抑制することにより抗炎症作用を示すことが明らかになった。AChでは同様の効果が見られなかったこと、および、ドネペジルの抗炎症作用はACh受容体阻害剤の影響を受けなかったことから、ドネペジルのACh分解酵素阻害効果とは別の働きによるものであることが示唆された。別種のACh分解酵素阻害剤(Galanthamine, Physostigmine)にはドネペジルのような作用は認められなかったことから、ドネペジルの抗炎症作用は本剤特異的であることが示唆された。 本研究では、マウス腹部大動脈瘤モデルに対するドネペジルの短期的・長期的評価を計画した。しかし、塩化カルシウム誘発性の腹部大動脈瘤モデルが再現性に乏しく、ドネペジルの効果を評価でき得るモデルの作成にまで至らなかったため、盲腸結紮穿孔による敗血症モデルに対するドネペジルの効果を検討した。その結果、ドネペジル投与群と非投与群において、敗血症モデルマウスの生存率に有意な差は認められなかった。ドネペジルの抗炎症作用は生存率にまで影響を及ぼすほど強力なものではないためと考察される。血中の炎症性サイトカイン濃度や腹腔内のマクロファージ数など、ドネペジルの抗炎症作用に対する適切な評価法の検討が必要である。
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