我々は、心筋症患者の心筋組織における遺伝子発現変動をDNAマイクロアレイにより網羅的に解析し、apoEが心筋症の重症度に非常に相関することを突き止めた。apoEの機能は、コレステロールや脂肪運搬、さらに細胞内抗酸化作用にいたるまで、詳細に研究されている。本研究では、心筋細胞での酸化ストレスをapoEが制御することで、心筋症の重症化に関与しているという仮説を立て、まずapoEの抗酸化作用に影響を及ぼす遺伝型解析を行った。その結果心筋症の重症度とapoEの遺伝型には相関が見られなかった。心筋症の発症および重症化に関与する遺伝子は、Troponin Tやジストロフィンなどが既に報告されているが、実際の発症患者においてそれらの遺伝子異常は全ての患者に当てはまらないのが現状である。本研究においてもapoEの遺伝型で心筋症の重症度を説明できなかった。そこでapoE単独でなく他の因子も視野に入れた細胞内動態の解析を行うことにした。DNAマイクロアレイを再解析した結果、機能未知であるDHRS7Cが、心筋症重症度に相関していること、また細胞内局在および心筋組織での特異的発現から、apoEと同様に心筋細胞の恒常性に関与している可能性が示唆された。そこで平成24年度は計画を変更し、この機能未知デヒドロゲナーゼであるDHRS7Cの心筋細胞での機能との関係を研究した。その結果、DHRS7Cが筋小胞に局在し、また細胞骨格の安定化に関与している可能性が示唆された。さらに、DHRS7Cの心筋特異的強制発現型マウスを作成し、圧負荷モデルによる心機能評価を行ったところ、Wildと比較して心機能の悪化が抑制されていた。本研究は、心不全患者において実際に発現変動した遺伝子に焦点を当てて研究を進めていることから、より臨床に近い細胞分子動態を解析できているといえる。
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