本研究では、心不全における精神行動障害としてうつ状態および認知機能障害に着目した。申請者はこれまでの研究成果で圧負荷心不全モデルにおいて視床下部シグマ受容体が減少し、そのことで交感神経活性化とうつ状態を呈することを確認していた。そこで、本研究では心不全モデルとして圧負荷モデルに加えて、心筋梗塞モデルを作成し、うつ状態および認知機能障害を評価した。また、脳内シグマ受容体発現について自律神経中枢である視床下部に加えて、認知機能に関わる海馬でも検討を行った。 <心筋梗塞慢性期(4週後)>:1.視床下部および海馬におけるシグマ受容体発現低下を認めた。2.うつ状態指標である尾懸垂試験における無動時間の延長と行動量の日内変動の低下を認めた。3.Y字迷路で評価した認知機能の低下を認めた。4.交感神経活性化を伴った心機能低下を認めた。5.以上1~4の変化が、心筋梗塞作成と同時に開始した側脳室内シグマ受容体アゴニスト(PRE084)慢性投与で改善を認めた。 <心筋梗塞急性期(1週後)>:1.慢性期と異なり、視床下部および海馬におけるシグマ受容体発現の減少は認めなかった。2.上記検討で有意にうつ状態を認め、また認知機能低下も認めた。3.生体内シグマ受容体アゴニストである神経ステロイド(DHEAs)の血中及び脳内濃度の減少を認めた。4.脳室内PRE084投与(1週間)により、心機能改善を認めないにも関わらず、うつ状態、認知機能の改善を認めた。 <圧負荷モデル>圧負荷モデルにおいても、既報のうつ状態に加えて脳内シグマ受容体減少により認知機能の低下を認めることを確認した。 以上より、心不全モデルにおいては脳内シグマ受容体経路機能不全が生じ、1.交感神経活性化による心不全悪化、2.うつ状態、認知機能障害といった精神行動障害を来すことが示唆され、心不全における新たな治療ターゲットとしての可能性を提唱できた。
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