研究課題
我々は、心筋梗塞後治癒過程における骨髄由来樹状細胞(DC)の役割を明らかにするために、DCの特異的マーカーCD11cのプロモーター下流にサルのジフテリア毒素受容体とGFPを組み込んだ遺伝子改変マウスの骨髄を、放射線照射した野生型マウスに移植する骨髄移植モデルを作成し、ジフテリア毒素(DT)を投与することで、骨髄由来のDCを選択的に排除した。DCの浸潤を免疫染色にて確認すると、正常心臓にはほとんど認めないGFP+ DCが、心筋梗塞後7日目をピークに梗塞部に浸潤していた。一方、DTを投与すると心臓に浸潤するDCがほぼ完全に除去され、DCは心筋梗塞後に骨髄より動員されることが示された。DTを投与しDCを一週間除去したDC ablation群では、梗塞後28日目の左室拡張末期径の拡大、収縮能の低下がより顕著に認められた。梗塞部における炎症性サイトカインの発現、MMP-9の活性を時系列で観察すると、対照群では3日目をピークとして、その後徐々に低下するのに対し、DC-ablation群では7日目においても高値が持続していた。一方、抗炎症性サイトカインIL-10の発現、血管新生の程度については、DC ablation群で有意に抑制されていた。梗塞後7日目における単球/マクロファージの浸潤がDC-ablation群で有意に亢進しており、その中でも特に炎症性Ly6Chigh単球、及びF4/80+ CD206- M1マクロファージの浸潤が対照群と比べて有意に多く、抗炎症性Ly6Clow単球、F4/80+ CD206+ M2マクロファージの浸潤は有意に低下していることが明らかとなった。梗塞後心不全における樹状細胞の役割について詳細に解析した論文はこれまで無く、本研究の結果は意義深いものと考え、Circulation誌に報告した(Circulation 2012;125:1234-45)。
2: おおむね順調に進展している
報告した論文は研究結果の一部をまとめたものであるが、交付申請書に記載した実験計画のうち、野生型(WT)、及びIL-10ノックアウト(IL-10KO)マウスから採取した骨髄由来樹状細胞(BMDC)のadoptive transferの実験ではある程度の結果が得られている。梗塞部よりcollagenase、elastase、DNAseを用いて炎症細胞を単離・精製し、細胞内サイトカイン染色を行いFACSにて解析すると、CD11c+ DCが主なIL-10産生細胞の一つであることが示唆された。その後、WTマウスの大腿骨、下腿骨から骨髄細胞を抽出し、10ng/mlのGM-CSFを加えたRPMI medium にて6日間培養後、AutoMACSでCD11c陽性のBMDCを採取し、樹状細胞(DC)を除去した群に心筋梗塞を作成後、5×106個のWT-BMDCを経静脈的に投与したところ、DC ablationによる心機能の悪化、Ly6Chigh 単球の浸潤の亢進、MMP-9の活性化がほぼキャンセルされた。一方で、IL-10KOマウスから採取したBMDCをadoptive transferしても、WT-BMDCの投与で見られたような効果はほぼ認めなかった。今後詳細な検討を繰り返し加える必要があるが、交付申請書に記載した平成23年度の研究目的について、ある程度成果が得られていると考えている。H24年度の研究目的(WTマウスへのWT-BMDCのtransfer)を達成するために行う実験についても現在データを集めている段階である。
これまで明らかになった結果の一部を論文として海外の学術雑誌に報告したが、樹状細胞(DC)がどのように炎症性、抗炎症性の単球・マクロファージを制御しているのか、その機序は明らかではない。今回注目したIL-10がそのkey moleculeとなっているのかさらなる検討が必要である。最近、マウス腸管に、IL-10を強力に発現してT細胞の活性化を制御する、CD11c+ CD11b+ MHCII+ の細胞が存在することが報告された(PNAS 2012;109:5010-5)。マーカーとしての表現型は我々が心臓で同定した樹状細胞と近似しており、心臓における樹状細胞がその他どのようなマーカー、サイトカインを発現して、さらにはT細胞をどのように制御するのかも検討する必要があると考えられる。
未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、翌年度の消耗品購入に充てる予定である。次年度の研究費については消耗品の購入が中心であり、その他旅費、論文印刷費などに充てる予定である。
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Circulation
巻: 125 ページ: 1234-45
10.1161/CIRCULATIONAHA.111.052126