研究概要 |
我々は家兎心筋梗塞(MI)に対する重粒子線照射(THIR)は、コネキシン43蛋白の発現を促し急性期の致死性心室性不整脈(VT/VF)の誘発性を低下させることを報告した。しかし慢性期の梗塞瘢痕に伴う不整脈抑制効果は明らかにされていない。本研究の目的は,イヌMI モデルを用いてTHIRによる急性期の心室遅延電位(LP)、慢性期の不整脈抑制効果の有無を検討することである。 対象は体重9-10kgのビーグル犬16匹(MI群, MI+THIR群,コントロール群, コントロール+THIR群, 4匹ずつ)。経皮的カテーテルによるマイクロスフェアー注入法により冠動脈左回旋枝を閉塞し,前側壁梗塞を作成した。THIRは理化学研究所においてMI作成後2週間で施行した。MI作成およびTHIR施行前後で、12誘導心電図による経時的なLPの計測を行った。慢性期の心室性不整脈に関しては,MI 作成1年後に電気生理学的検査を行い,プログラム刺激によるVT/VF の誘発性を評価した。 結果LPは,MI作成前, 急性期(2週間)、慢性期(1年)で測定し、MI+THIR群がMI群に比し有意に陰性率が高値であった(MI作成前:0% vs 0%, p<n.s, 2週間:100% vs 25%, p<0.01, 1年:100% vs 25%, p<0.01)。慢性期の誘発性VT/VF はMI 群で全例出現したが,MI+THIR 群では1例のみであった。コントロール群(Cont)におけるLPは,THIR施行前, 施行後(2週間)、慢性期(1年)で測定し、Cont群とCont+THIR群では有意さは認めなかった。慢性期のVT/VF はいずれの群においても誘発されなかった。 重粒子線照射は梗塞後のLPを改善し、慢性期における致死性心室性不整脈を抑制した。健常心に対する重粒子線照射に伴う催不整脈作用は認められなかった。
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