研究課題/領域番号 |
23790883
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
李 ヨキン 日本大学, 医学部, 助教 (30599048)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 低分子量Gタンパク質 / Rac1 / 血管平滑筋細胞 |
研究概要 |
Rac1は細胞骨格制御機能以外に細胞極性、細胞周期、細胞間接着制御にも関与する。近年Rac1はメカニカルストレス、様々な刺激より血管平滑筋細胞(VSMC)の増殖、遊走等に関与していることを報告されているが、VSMCにおけるRac1の役割とその下流のシグナリング経路はまだ詳細が明らかにされていない。本研究では、全身のRac1ノックアウト(KO)マウスと平滑筋特異的Rac1 KOマウスを用いて、頸動脈結紮モデルでずり応力による新生内膜の形成を研究し、Rac1によるVSMCにおける血管リモデリングの制御を検討する。全身のRac1ホモKOマウスが胚性致死である事から、ヘテロKOマウス(Rac1+/-)を用いた。Rac1+/-マウスの発育、体重、寿命などの生理学的パラメータは野生型(WT)マウスと変わらない。頸動脈結紮4週後、Rac1+/-マウスはWTマウスより有意に頸動脈新生内膜の増殖を抑制した。VSMCにおけるRac1の役割を検討するため、平滑筋特異的Cre発現マウス(smMHC-Cre,smCre)とRac1のfloxマウス(Rac1flox/flox)を交配し、smCre/Rac1flox/floxマウスを作成した。smCre/Rac1flox/floxは生後一カ月致死である事から、smCre/Rac1+/floxマウスを用いて実験した。頸動脈結紮4週後、smCre/Rac1+/floxマウスはControl (Rac1+/flox)マウスより有意に頸動脈新生内膜の増殖を抑制した。また大動脈よりVSMCを分離、培養した。WTとControlのVSMCに対し、Rac1+/-とsmCre/Rac1+/floxのVSMCの増殖能と遊走能は低下した。以上の結果より、Rac1がVSMCにおける新生内膜の増殖と血管リモデリングで重要な役割を果たしていることを示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度、ハーバード大学より日本大学に移送したRac1+/-マウス、smCreマウスとRac1flox/floxマウスをクリーンアップし、系統維持、繁殖した。またsmCreマウスと Rac1flox/floxマウスを交配し、平滑筋特異的Rac1のホモKOマウス(smCre/Rac1flox/flox)を作成した。ところが、smCre/Rac1flox/floxマウスは生後一カ月致死であるので、本研究はヘテロの平滑筋特異的Rac1 KOマウス(smCre/Rac1+/flox)を用いた。Rac1+/-マウスとWTマウス、またsmCre/Rac1+/floxマウスとControlマウスに左頸動脈結紮モデルを作製し、病理で新生内膜の増殖を比較した。頸動脈結紮4週後、Rac1+/-マウスはWTマウスより新生内膜が少なく、またsmCre/Rac1+/floxマウスはControl (Rac1+/flox)マウスより新生内膜が少なかった。さらに、マウス大動脈よりVSMCを分離、培養した。VSMCにおけるRac1の増殖能と遊走能の役割を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は平成23年度を引き続き、結紮1週後と2週後の頸動脈を分析する。統計学的に必要な個体数の解析を終え、動物実験を完了させる。また大動脈から平滑筋細胞を分離、培養する。Cell counting、[3H]-Thymidineと[3H]-Leucine取り込みによるDNA、蛋白合成により、VSMCの増殖能を比較評価する。Cell Adherence Assayにより粘着能を、比較評価する。Boyden chamber Assay、Wound-Healing AssayによりVSMC遊走能を比較検討する。また、活性酸素産生能、活性型caspaseの染色によるアポトーシスなどを比較評価する。またVSMCタンパクを抽出し、PAK1などの既知のRac1の下流の蛋白の発現とリン酸化、サイクリン、Skp2などの細胞増殖に関わる蛋白の発現、MAP Kinase(ERK、JNK、p38MAPK)、 NFkappaB、cGMPなどの発現、リン酸化を比較検討する。さらに、VSMCからmRNAを抽出し、マイクロアレイを行い、VSMCにおけるRac1の下流遺伝子を同定し、報告されていない遺伝子については、その発現と発現機構について解析する。マイクロアレイ分析の結果とタンパク発現とリン酸化の結果より、VSMCにおけるRac1下流のシグナリング経路を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度研究費はマウスの飼育と細胞培養関連試薬の購入及びマイクロアレイ等に使用する。
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