研究課題
Rac1は血管平滑筋細胞(VSMC)の増殖、遊走等に関与していることを報告されているが、VSMCにおけるRac1の役割とその下流のシグナリング経路はまだ詳細が明らかにされていない。本年度は前年度を引き続き、平滑筋特異的Rac1 KOマウスを用いて、頸動脈結紮モデルでずり応力による新生内膜の形成を研究し、Rac1によるVSMCにおける血管リモデリングの制御を検討した。平滑筋特異的にRac1の発現を半分に低下させたsmCre-Rac1+/floxマウスはコントロールマウスより頸動脈の血管障害による新生内膜の増殖を有意に抑制し、smCre-Rac1+/floxマウスのVSMCの増殖能と遊走能は低下していた。その機序としては、smCre-Rac1+/floxマウスのVSMCでは、活性酸素種(ROS)の産生が低下し、PAK1のリン酸化 と ERKのリン酸化は少なかった。またCyclinA、CyclinEとCDK4などの細胞周期に関連する遺伝子の発現は少なかった。さらに、分化型平滑筋細胞で多く見られ、脱分化すると減少するSM22の発現はsmCre-Rac1+/floxマウスのVSMCで多くみられた。以上の結果より、Rac1がVSMCの増殖、遊走、脱分化などを制御し、障害血管の新生内膜の増殖と血管リモデリングで重要な役割を果たしていることを示唆された。
3: やや遅れている
申請者本人の出産、育児のため、産休を取っていたので、実験の進展は予定より遅くなった。
平成25年度は前年度を引き続き、マウスによる動物実験を完了させ、病理解析を検討する。VSMCタンパクを抽出し、Rac1の下流の蛋白の発現とリン酸化、サイクリン、Skp2などの細胞増殖に関わる蛋白の発現、MAP Kinase(ERK、JNK、p38MAPK)、 NFkappaB、cGMPなどの発現およびリン酸化を比較検討する。また平滑筋細胞形質転換、脱分化に関連する他の分子マーカー(アクチン、ミオシンなど)の発現を比較し、Rac1の平滑筋細胞形質転換にの制御を検討する。さらに、VSMCからmRNAを抽出し、マイクロアレイを行い、VSMCにおけるRac1の下流遺伝子を同定し、報告されていない遺伝子については、その発現と発現機構について解析する。マイクロアレイ分析の結果とタンパク発現とリン酸化の結果より、VSMCにおけるRac1下流のシグナリング経路を検討する。
マウスの飼育と細胞培養、染色、分子生物分析関連試薬の購入及びマイクロアレイ等に使用する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件)
Circ J.
巻: 76 ページ: 1197-1202
10.1253/circj.CJ-11-0966