本研究は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)分泌を誘導する新規活性ペプチドの産生制御機構とこのペプチドによるANP分泌誘導の作用機序を解明することを目標として、最終的にはこのペプチドの心臓での機能解明を目指して実施した。ANPは心臓で産生され、心筋や血管の弛緩効果をもたらし、心不全の治療薬として臨床応用されている。本研究のペプチドは膜タンパク質由来のペプチドだが、現在までに、膜タンパク質から切り出されたペプチドが循環器系で作用するという報告は全くない。 このペプチドの産生機博の解明を目指し、このペプチドの産生細胞であるラット心臓線維芽細胞を各種サイトカイン等で刺激し、このペプチドの親タンパク質である膜タンパク質の発現変動を定量PCRで測定した。同じくANP分泌誘導が報告されていたアンジオテンシンIIや炎症性サイトカインであるインターロイキン1βでま発現誘導は検出されなかった。一方、このペプチドによるANP分泌の作用機序を明らかにする目的で、既知の生理活性ペプチド、エンドセリンとこのペプチドの活性強度の比較を行った。このペプチドは100nMまで有意にANP分泌誘導を行ったが、エンドセリンと比べて1桁活性は弱かった。一方、このペプチドによるANPの発現誘導を調べたところ、6、12、24、48、72時間では無刺激と比べて有意な差は示さなかった。したがってこのペプチドによる作用はANPの発現ま変化させず、分泌を促進させるものと考えられる。このペプチドのノックアウトマウスを作製し、野生型と心臓体重比を比較したが、有意な差は検出されなかった。しかし、血中ANP量はノックアウトマウスでは野生型に比べて低値を示したことからこのペプチドはANP産生分泌に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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