研究課題/領域番号 |
23790889
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
若林 真樹 京都大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (70552024)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | プロテオミクス / 心筋症 / リン酸化プロテオミクス / LC-MS/MS / 心不全 |
研究概要 |
本研究では、遺伝子変異を含む様々な病態誘発因子が最終的に心筋症という表現型を引き起こす分子機構を、プロテオーム解析を用いて解明し、治療戦略へと応用することを目指す。心筋症様症状を呈する各種モデル動物とそのコントロール群から採取した心臓のプロテオームを網羅的に同定し、病態特異的に発現量が変動するタンパク質を探索するためには、再現性、網羅性、定量性を確保することが必須であるため、まず初めに実験条件の最適化を行った。採取した心臓組織を、SDSとほぼ同等のタンパク質可溶化能を持つデオキシコール酸ナトリウム(SDC)とラウロイルサルコシン酸ナトリウム(SLS)の混合溶液中で細断、煮沸することで、タンパク質を効率よく網羅的に回収することが可能であった。また、StageTip (Stop-and-go-extraction Tip)を用いて酵素消化後のペプチド試料を脱塩・濃縮し、LC-UVシステムによりその回収量を評価したところ、試料を再現性よく回収できていることが確認できた。この方法を正常マウスの心臓組織に適用したところ、1回のLC-MS/MS測定で5000以上のペプチド、1000以上のタンパク質が同定され、同様のサンプルからHAMMOC(Hydroxy Acid-Modified Metal Oxide Chromatography) 法を用いてリン酸化ペプチドを濃縮し、解析を行ったところ、600~1000程度のリン酸化ペプチドを同定することができた。また、マススペクトルのピーク面積から再現性よくペプチドの相対定量が可能であった。十分な試料量が確保できるサンプルに関しては、同一サンプルの繰り返し測定を行うことで同定タンパク質数、リン酸化サイト数を改善することが可能であるため、試料量に応じて測定回数を増やすことで網羅性をさらに改善する予定である。現在、疾患試料の解析を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の研究期間当初である5月に研究機関を異動し、研究環境の整備に時間を要したため、研究の推進が遅れてしまった。これに伴い、予定していた心筋症モデルであるトランスジェニックマウスやノックアウトマウスからの心臓組織の採取が遅れることとなってしまった。現在、心臓組織採取の計画は完了しており、一部の試料に関してはすでに解析を行っている。組織試料の前処理方法、測定条件、解析方法の最適化は本年度中にほぼ終了することができたため、試料採取が終了し次第、全てのサンプルを迅速に測定、解析する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度確立した解析手法を用いて様々な心筋症モデル動物の心臓組織のプロテオーム解析、リン酸化プロテオーム解析を網羅的かつ定量的に徹底的に行う。コントロール群に対して変動が見られるタンパク質を、Uniprot-keywords やGO term などで分類し、変動するタンパク質群の特性や機能的相関を精査するほか、KEGGなどのパスウェイ解析ツールやクラスター解析手法などを用いて、変動するタンパク質群を分子ネットワークとして明示することを目標とする。入手可能な心筋症モデル動物全てに関して同様に比較を試み、共通して変動が見られるタンパク質群を、心筋症発症・進展の要因と推定される分子群の候補として選定していく。さらに、病因と推定される分子群に標的を絞り、ジメチルラベル法、iTRAQ法などの安定同位体標識試薬を用いた定量比較を行うことで、より精度よく定量解析を行う。特に、病態の進行度ごとに組織サンプルが採取できるモデルに関しては、選定した標的分子の量的変動と病態の進行の関連を詳細に解析する。また、どのようなタンパク質群・シグナル伝達経路が変動しているのかを同定、または推測し、心筋初代培養細胞などの培養細胞に対して遺伝子導入による発現制御を行うことで、病態を模倣しうる培養細胞の作成を試みる。発現制御と連動して変動するタンパク質を、網羅的に同定し、病態における変動と比較することで確認を行う。心筋組織プロテオームでは確認されなかった分子の変動も精査し、変動するタンパク質群の分子ネットワークへの関連付けを広げるとともに、病態発症の詳細な分子機構を解析する。以上のような探索を繰り返し行い、心筋症発症・進展に関わる分子群を分子ネットワークの病態変化として網羅的にとらえる。そこから病態発症の鍵となる分子群を類推し、治療戦略への応用を試みる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究の推進に遅れが生じたため、遂行できなかった実験計画分の研究費を、次年度に持ち越すこととした。しかし、最終的に扱う検体数や実験内容に関しては大きな変更は行わないため、研究期間全体としては当初の予定通りの研究費用が必要となる。具体的には、組織採取用の実験動物の購入・維持に充てる費用、質量分析での定量に必要なペプチド誘導体化試薬の購入や、安定同位体標識ペプチドの合成に充てる費用が必要となる。また、LC、MS関連の消耗品として、カラムやスプレーチップなどを購入する必要がある。詳細な検討を行うための培養細胞や、培養関連試薬、器具の購入や、DNAチップの購入も必要である。さらに、情報収集のための国内旅費、成果が出た際の成果発表のための国内旅費、英語論文校正費、論文投稿費が必要となる。
|