研究課題/領域番号 |
23790892
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
福原 達朗 東北大学, 大学病院, 助教 (80400365)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | EGFR |
研究概要 |
まず、平成23年度は変異EGFR発現ベクター作成を検討したが、平成23年3月11日に発生した東日本大震災により、停電が続いたために超低温冷蔵庫内の試薬、細胞を失った。このため、計画を断念・変更し、EGFR発現ウィルスベクター(pDN-IRESEGFP(レトロウイルスベクター))を国立成育医療センター研究所の小野寺雅史先生より供与して頂き、実験に使用する方針とした。現在消失してしまった細胞株を再入手し、維持管理し、実験の準備を進めている。実験の準備を整える間に、変異EGFRに関連する周辺の因子を検索するため、肺癌細胞株PC9(EGFR exon19欠失変異陽性)に対し、EGFR阻害剤を投与したときの、蛋白質リン酸化の状態の変化を確認する実験を行った。具体的には、EGFR変異陽性肺癌細胞株PC9にEGFR阻害剤ゲフィチニブを90日間投与し続け、耐性化した細胞株を樹立し、実験モデルを作成した。阻害されたEGFRに変わる代替増殖シグナルを誘導する受容体型チロシンキナーゼ(RTK)は、クローンにより異なることが確認された。そのうちの一つのクローンでは、RTK蛋白質アレイにより、すでに報告されている肝細胞増殖因子受容体であるMetの増幅とERBB3のリン酸化を確認できた。さらにこの細胞の増殖抑制を誘導するため、様々な阻害剤をゲフィチニブと共に投与すると、c-Kit,Bcr-Abl,PDGFR阻害剤であるイマチニブの高濃度投与が効果を認めた。変異EGFR周辺の蛋白質について様々な報告がなされているが、これらの代替シグナルが変異EGFR発現肺癌細胞に対してEGFR阻害剤を投与した際に耐性化する機序に関連していると考えられているが、同時に変異EGFR発現時の発癌との関連についても、今後研究する必要があると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在、東日本大震災により消失した細胞を再入手し、実験への準備を行っており、実験当初の計画から遅延しているといえる。しかし、その間に変異EGFR周辺の代替シグナル伝達系についての解析を進めており、今後の研究の進展に有用であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
他臓器由来の細胞株に変異EGFRを強制発現させることで、細胞株の細胞増殖能、浸潤能、転移能等の性質を検討し、変異EGFRを肺胞上皮に発現させた場合と比較して、異なる表現系をもつ細胞を同定する。リン酸化蛋白質のプロテインアレイ、必要に応じcDNAマイクロアレイ等の網羅的解析を行い、EGFR発現に連動して変化を示す因子Aを同定する。平成23年度の研究で、変異EGFR発現細胞にEGFR阻害剤を添加した際に、細胞が生存を維持するためには変異EGFRシグナルに代替するシグナル伝達が必要となることが明らかとなっている。このため、仮説としては、生存の中心となる変異EGFRシグナルが遮断された後の代替シグナルは発癌後に発生するものではなく、本来の細胞が有しており、その有無により変異EGFRが発現した際に癌化するかどうかが決まっている可能性がある。この仮説が正しければ、因子Aも、抗アポトーシス作用に関連するなどの、代替シグナルに関連する因子である可能性がある。因子Aが同定された際には、因子Aの発現プラスミドを作成して、各種臓器由来の細胞株にその遺伝子を強制発現させ、EGFR共発現の有無 と関連した細胞増殖能、浸潤能、アポトーシス誘導能等の差を検証する。続いて、因子Aの阻害実験を行い、変異EGFR強制発現後の細胞の表現系の変化を確認する。因子Aの機能が確認されれば、発癌に関しての重要な因子として、臨床への応用を検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
他臓器由来の細胞株に変異EGFRを強制発現させることで、細胞株の細胞増殖能、浸潤能、転移能等の性質を検討し、変異EGFRを肺胞上皮に発現させた場合と比較して、異なる表現系をもつ細胞を同定する。細胞株培養単独では、表現系に差がでない可能性もあるため、その場合には、SCIDマウス皮下に腫瘍細胞を植え付け、その腫瘍の形成の過程より、変異EGFR発現と発癌の関連を検索する。変異EGFR発現に関して表現系を示さない細胞の同定後は、リン酸化蛋白質のプロテインアレイ、必要に応じ、cDNAマイクロアレイ等の網羅的解析を行い、変異EGFR発現に連動する因子Aを同定する。続いて、因子Aの発現プラスミドを作成して、各種臓器由来の細胞株にその遺伝子を強制発現させ、EGFR共発現の有無と関連した細胞増殖能、浸潤能、アポトーシス誘導能等の差を検証する。さらに、因子Aに対し既知の特異的阻害薬があれば阻害実験を行う。阻害薬が無い場合には、shRNAで発現をノックダウンし、阻害実験を行い、変異EGFR強制発現後の細胞の表現系の変化を確認する。さらに、因子Aが未知である場合、リコンビナント蛋白質を精製し、因子Aを抗原とする抗体を作成し、倫理委員会に申請した後にヒト肺癌患者における手術検体を利用し、免疫染色を行う。その因子の発現と臨床データからの癌の悪性度との相関性を検証する。因子Aの機能が充分に検証され、その重要性が明らかとなった際には、論文化し、学会での発表、論文投稿を目標とする。
|