1.実施した研究の内容 リゾリン脂質シグナルによる肺幹細胞調節機構を解明するため、肺幹細胞の分離を試みた。しかし、肺幹細胞はマウスの肺において非常にマイナーな分画であり、解析に用いる十分量を回収することは技術的に非常に困難であった。そこで、骨髄由来間葉系幹細胞をモデルとしてリゾリン脂質シグナルによる幹細胞調節機構の解析を行った。リゾリン脂質のシグナルは、リゾリン脂質受容体(LPAR)1~5を介して細胞内へ伝達されるが、LPAR1の特異的アンタゴニストによりリゾリン脂質シグナルを阻害するしたところ、間葉系幹細胞の細胞老化が抑制されることが明らかとなった、同様に、骨芽細胞と脂肪細胞への分化能を維持することができた。この知見を肺幹細胞で確認するため、マウス肺より単一細胞を調整し、肺幹細胞のプールと考えられている蛍光色素Hoechst33342に染まらない細胞集団(Side Population;SP)を回収し、同様にLPAR1の特異的アンタゴニスト処理を行ったところ、肺幹細胞においてもリゾリン脂質シグナルの阻害により細胞老化が有意に抑制されることが明らかとなった。 2.意義ならびに重要性 リゾリン脂質は生理的条件下で常に産生される情報伝達物質であり、特に慢性炎症等でその産生は増加する。リゾリン脂質のシグナルが肺幹細胞の老化に関わるという知見は、肺の慢性炎症性疾患や、加齢に伴う慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの病態解明に一石を投じるとともに、新たな創薬の可能性を開拓するものと思われる。
|