研究課題
非小細胞肺癌に対する分子標的薬として、上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬が開発され、EGFR活性化型変異を有する症例において良好な治療成績が報告されている。しかし、肺腺癌において欧米で30-50%、本邦で10%前後の頻度で検出されているK-ras変異を有する肺癌に対しては、現状では有効な分子標的薬はない。Ras遺伝子に活性化変異が生じると、Ras蛋白は恒常的に活性化され、発癌や癌細胞の生存・増殖に寄与すると考えられている。一方、基礎的な検討でRasを活性化させた細胞は細胞内活性酸素(ROS)が上昇しやすく、酸化的ストレスによって細胞死をきたすことが報告されている。本研究ではRasシグナル活性化変異を有する肺癌に対して、ROS上昇により癌細胞特異的に細胞死を誘導する新規治療法の開発を目的として、これまでに以下の成果をあげた。1)K-ras変異を有する複数の非小細胞肺癌細胞株において、ROSを上昇させる薬剤によって細胞の生存率が低下することをMTT法で確認した。2)この抗腫瘍効果が活性化したRasシグナルに依存的であることを確認するために、siRNA法でK-rasの発現を抑制した状態でROSを上昇させる薬剤を加えたところ、抗腫瘍効果が減弱した。3)K-ras変異を有する肺癌細胞株を重度複合免疫不全(SCID)マウスの皮下へ移植し、ROSを上昇させる薬剤を投与したところ、10日間の経過で著明な腫瘍縮小効果を示した。また、マウス体重の減少はほとんどみられず忍容性にも優れていることが確認できた。以上の結果から、K-ras変異を有する肺癌細胞に対して、細胞内ROSレベルを上昇させる薬剤はin vitro、in vivoいずれにおいても抗腫瘍効果を示し、マウスに対する毒性も軽度であることが確認された。
2: おおむね順調に進展している
K-ras変異を有する肺癌細胞株対して、活性酸素を上昇させる薬剤によって、in vitro、in vivoにおいていずれも抗腫瘍効果がみられ、マウスにおける薬剤の忍容性も確認できたことから、現時点ではおおむね順調な研究の進捗が得られている。
前年度に得られた知見をもとに、Rasシグナル活性化により細胞内活性酸素が上昇する機序を解析する。また、K-ras変異を有する他の肺癌細胞株においても、マウスモデルにおいて抗腫瘍効果が得られることを確認する。臨床検体を用いて、K-ras変異を有する肺癌腫瘍組織における酸化ストレスマーカー発現の有無について、免疫染色法などで検討する。
臨床検体の収集、免疫染色に用いる抗体や動物実験のためのマウスと薬剤の購入など。
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