本研究ではRasシグナル活性化変異を有する肺癌に対して、ROS上昇により癌細胞特異的に細胞死を誘導する新規治療法の開発を目的として、これまでに以下の成果をあげた。 1)K-ras変異を有する複数の非小細胞肺癌細胞株において、ROSを上昇させる薬剤によって細胞の生存率が低下することをMTT法で確認した。また、K-ras変異を有さない非小細胞肺癌細胞株、肺線維芽細胞株においては、生存率の低下が軽減されることを確認し、抗腫瘍効果がK-ras変異に依存的であることが示唆された。 2)この抗腫瘍効果がROS上昇に依存的であることを確認するために抗酸化剤を添加した状態で解析したところ、抗腫瘍効果が減弱した。また、ウエスタンブロット法でアポトーシスの誘導を検討したところ、ROSを上昇させる薬剤を添加することによって、K-ras変異を有する細胞株においてはアポトーシス関連タンパクの発現が上昇し、抗酸化剤を併用することで、この現象はみられなくなった。 3)K-ras変異を有する肺癌細胞株、2株を重度複合免疫不全(SCID)マウスの皮下へ移植し、ROSを上昇させる薬剤を投与したところ、1株では10日間の経過で著明な腫瘍縮小効果を示し、もう1株では腫瘍増大が抑制された。また、マウス体重の減少はほとんどみられず忍容性にも優れていることが確認できた。 以上の結果から、K-ras変異を有する肺癌細胞に対して、細胞内ROSレベルを上昇させる薬剤はin vitro、in vivoいずれにおいても抗腫瘍効果を示し、マウスに対する毒性も軽度であることが確認された。
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