研究課題/領域番号 |
23790904
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
中村 勇規 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (90580465)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | マスト細胞 / 喘息 / 体内時計 |
研究概要 |
本研究の目的は、マスト細胞における「体内時計」が喘息の病態形成に果たす役割について解明し、マスト細胞の「体内時計」制御による喘息の予防/治療への新しいアプローチを提唱するである。我々は既に野生型マウス由来培養マスト細胞(BMMC)において、時計遺伝子が24時間周期性(概日性)を持って発現し、時計システムを有していることを見出している。そこで野生型マウス由来、主要な時計遺伝子の一つであるClock遺伝子を変異させたマウス由来BMMCを作成し、IgEによる脱顆粒反応に24時間周期性の変動が認められるか否かについて検討した。その結果、野生型マウス由来BMMCでは脱顆粒反応に24時間周期性が確認でき、Clock変異マウス由来BMMCではその周期性が減弱または無くなることが確認できた。また、脱顆粒反応を行った時間に野生型、Clock変異マウス由来BMMCからmRNAを回収し、real-time PCRを用いて解析した結果、IgEのレセプターであるFcεRのalpha鎖、beta鎖の発現にも周期性があり、脱顆粒反応と関係している可能性を示唆する結果を得ている。加えて、野生型、Clock変異マウス由来BMMCをマスト細胞欠損マウス(W/Wvマウス)の皮下に移入し、野生型マスト細胞をもつマウス、Clock遺伝子変異マスト細胞をもつマウス(マスト細胞に"時計遺伝子"機能がないマウス)の作成に成功した。そのマウスを用いて、生体内における脱顆粒反応に周期性があるか否かを解析した結果、野生型マスト細胞を移入したマウスではPM10:00(げっ歯類における朝)に強く、AM10:00(げっ歯類における夜)に弱いという周期性が確認でき、Clock遺伝子変異マスト細胞を移入したマウスではその周期が消失していた。これらの結果は「体内時計」とアレルギー疾患(喘息)が強く関連していること示唆してる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マスト細胞における概日リズム性の機能については、脱顆粒反応に周期性があることが分かり、その周期が時計遺伝子Clockの変異によって消失することが確認できている。さらにIgEのレセプターであるFcεRのalpha鎖、beta鎖の発現にも周期性があり、これらの発現も時計遺伝子Clock変異によって消失することも確認できた。これらの結果から、マスト細胞における概日リズム性機能の一つは脱顆粒反応であり、その周期性は時計遺伝子に依存してることが分かった。さらに、予備で行ったマスト細胞欠損マウスの皮下に野生型、時計遺伝子Clock変異マウスから作成したマスト細胞を移入した実験では、生体内においてもマスト細胞の脱顆粒反応に周期性があり、Clock変異によってその周期が消失することが確認できている。これらのことから、マスト細胞における概日リズム性の機能は完全でないが特定できており、その機能を制御する分子・遺伝子も特定できている。さらに、喘息モデルで作成を試みる時計遺伝子変異マスト細胞移入マウスの作成も達成できており、時計遺伝子変異による喘息病態形成に影響があることも予想できる。以上の理由からおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1.マスト細胞における概日リズム性の機能の同定これまでにマスト細胞の体内時計の概日性に伴い、脱顆粒反応も概日性を持つことが視されている。しかし、完全にどの分子または遺伝子がまでは同定できていないのでさらに詳細を追及する。2.マスト細胞選択的に「時計遺伝子」が欠如したマウスを用いた喘息モデルの作成と解析時計遺伝子群において中心的な役割を果しているPer2遺伝子の欠損マウス、またはClock遺伝子の欠損マウスが既に樹立されており、概日リズムの乱れが観察されている。これらのマウスの骨髄細胞をIL-3/SCFの条件下で培養しBMMCを得たあと、マスト細胞欠損マウス(W/Wvマウス)に移入し、Per2またはClock遺伝子欠損マスト細胞をもつマウス(マスト細胞に"時計遺伝子"機能がないマウス)を作成する。同時に、野生型マウス由来のBMMCをW/Wvマウスに移入したコントロールマウスを樹立する。その後、これらのマウスに対して卵白アルブミン(OVA)及びLPSの同時吸入による感作後、OVAを吸入チャレンジすることによって既報のように喘息モデルを作成し(J Exp Med 196:1645,2002)、肺における好酸球浸潤、気管支肺胞洗浄液中のTh2タイプサイトカイン濃度(IL-4,IL-5, IL-13など)、上皮細胞由来のTSLP、IL-33の発現、血清中のIgE濃度、脾臓T細胞のOVA刺激に対するサイトカイン産生(IL-4, IL-13, IFN-gなど)について検討し、マスト細胞における時計遺伝子欠如が喘息反応に与える影響について解析する。また、OVAチャレンジの時間を日中と夜間の2パターンで行い、抗原(アレルゲン)がチャレンジされる時間によって喘息反応の強さに違いが認められるか否かについてもコントロール及びマスト細胞Per2またはClock遺伝子欠損マウスにおいて検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.実験用試薬・器具類購入費:マスト細胞培養用試薬、時計遺伝子の発現検討や脱顆粒反応の検出用試薬などは本実験に必須である。(70万円)2.実験用動物(マウス)購入費:本研究はマウスを用いた個体レベルの実験であり本費用は必須である。(70万円)(野生型マウス約200匹/年および肥満細胞欠損マウス約50匹/年)3.旅費(10万円):日本アレルギー学会、日本免疫学会参加費用。本研究の成果を学会で発表するために必要である。また、平成23年度の研究費のうち16,932円が平成24年度に繰り越しになった。これは当初予定していた消耗品(物品費)の価格が業者との交渉により、一部購入経費の削減が可能となったためである。繰り越しとなったこの研究費は、当初の研究費とあわせて消耗品(物品費)購入のための支出に当てる予定である。
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