研究概要 |
気管支喘息発作時における粘液過剰産生機序の解明を目的とし、平成23年度には気道上皮におけるMUC5AC/MUC5B発現を相加的あるいは相乗的に誘導する共刺激の同定を試みた。Air liquid interface (ALI)にて培養したヒト気管上皮細胞へ,NF-κBを活性化する前炎症性サイトカイン(IL-1β, IL-17, TNF-α)やTLR ligands (LPS, LTA, poly I:C, fllagelin)とSTAT6を活性化するTh2サイトカイン(IL-4, 13)を,単独にあるいはそれらを組み合わせた共添加(IL-1β + IL-13, IL-17A + IL-4, TLR ligand + IL-13など)を行い,刺激因子添加におけるMUC5AC, MUC5B mRNA発現誘導をRT real-time PCRを用いて検討した。単独刺激においては,IL-1β, IL-17添加によりMUC5AC, MUC5Bが誘導されることを確認した。一方,STAT6活性因子であるIL-4, IL-13の24時間刺激において,ヒト気管上皮細胞におけるMUC5AC, MUC5B誘導は確認されなかった。共刺激に関しては,IL-1βまたはIL-17とL-4またはIL-13の24時間同時添加で,MUC5AC, MUC5Bの相加相乗誘導は確認されなかった。一方,IL-1βまたはIL-17とpoly I:Cの共刺激(IL-1β+poly I:C, IL-17+ poly I:C)において,相加的なMUC5AC誘導が確認された。現在,刺激因子の組み合わせや刺激のタイミング、タイムコースなどをより詳細に検討し、相加相乗的にMUC5AC, MUC5Bを誘導する刺激条件の同定を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NF-κB活性化因子とSTAT6活性化因子の共刺激因子添加によるヒト気管上皮細胞におけるMUC5AC, MUC5B mRNA発現誘導を試みている。平成23年度の検討で,IL-1β, IL-17添加によりヒト気管上皮細胞におけるMUC5AC, MUC5B発現誘導が認められたが,IL-13, IL-4の24時間単独刺激はMUC5AC, MUC5B発現上昇を誘導しなかった。一方、いくつかの共刺激添加において相加的なMUC5AC誘導がみられため,今後刺激因子の組み合わせやタイムコースの検討,添加のタイミングなどさらに詳細な刺激条件に関して検討することを考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,相加相乗的なMUC5AC, MUC5B誘導を来す刺激条件を確認すべく,刺激因子の組み合わせやタイムコース,添加のタイミングなどに関して更なる検討を行う。併せて,共刺激により活性化されるシグナル伝達因子の解析を実施する。 我々が以前行ったマウス気管上皮細胞における知見では,IL-13によるMUC5AC誘導には48時間程度の長時間刺激が必要であり,ヒト気管上皮細胞に関しても同様の刺激が必要である可能性がある。 実際、臨床的には気管支喘息状態(高Th2サイトカイン状態)を基礎にして,気道感染により喘息発作・粘液過剰産生増悪が惹起されることから,ヒト気管上皮初代培養系においても,IL-13存在下にて培養の後NF-κB活性化因子で刺激しMUC5AC, MUC5Bの相加相乗発現誘導を来すか否か検討する必要があると考えている。上記の他,IL-17とTLR ligandsの共刺激など,更なる刺激方法の工夫を実施し、相乗的MUC5AC, MUC5B遺伝子誘導を来す刺激条件の同定を試みる。また,相加相乗誘導を来す細胞内シグナル伝達因子の検討として,STAT6リン酸化、MAPK(ERK, p-38 MAPK, JNK)のリン酸化、NF-κB(p50, p65)の活性化に関してwestern blotting法にて検討すると共に,各種インヒビターやsiRNAを用いていかなる経路阻害が共刺激誘導を効果的に抑制しうるか検討する。 併せて,上皮由来サイトカインとされ喘息病態に関与するTSLP, IL-25, IL-33の発現誘導に関して検討を加える予定である。
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