研究課題/領域番号 |
23790905
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
藤澤 朋幸 浜松医科大学, 医学部附属病院, 講師 (20402357)
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キーワード | 粘液過剰産生 / 気管支喘息 / 気道上皮細胞 / MUC5AC / MUC5B / 上皮産生性サイトカイン / 抗菌ペプチド |
研究概要 |
気道上皮細胞におけるMUC5AC/MUC5B発現を相加相乗的に誘導する共刺激の検討を行った。正常ヒト気管上皮初代培養細胞(Normal human bronchial epithelial cell: NHBE)と正常ヒト気管上皮cell line(HBE1)を用いて,前炎症性サイトカイン(IL-1β, IL-17)、各種TLR ligands (pam3csk, LPS, fllagelin, CPG)、Th2サイトカイン(IL-4, 13)を、単独あるいはそれらを組み合わせた共添加を行い,MUC5AC, MUC5B mRNA発現誘導を検討した。その結果、HBE1細胞において、IL-1β, IL-17とTLR ligandsの共添加(IL-1β+ pam3csk, IL-17+ LPSなど)による相加的なMUC5AC/MUC5B誘導が確認されたが、NHBEにおいて同様の共添加による相加的MUC5AC/MUC5B誘導は確認されず、その誘導は細胞種により異なる結果であった。 次に、各種共添加における上皮産生性サイトカインや抗菌ペプチドの発現誘導に関して検討を行った。気道上皮は、侵入する異物と直接に接する器官として気道における自然免疫の重要な役割を担っている。TLR ligands刺激等により、気道上皮における種々のサイトカインやケモカイン発現が惹起され、それらが獲得免疫誘導に関与する一方で、気道上皮における自然免疫と獲得免疫の相互作用に関する検討は少ない。本年度の検討において、IL-17とTLR ligands (pam3csk, LPS)の共添加は、NHBEとHBE1におけるIL-8とhuman β-defensin2発現を相乗的に誘導した。これは、気道上皮における自然免疫と獲得免疫の相互作用を示す重要かつ意義深い知見と考えられそのメカニズムに関して検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度ならびに平成24年度の検討において,IL-1β, IL-17の単独添加により正常ヒト気管上皮初代培養細胞(Normal human bronchial epithelial cell: NHBE)および正常ヒト気管上皮cell line(HBE1)におけるMUC5AC, MUC5B発現誘導を確認した。一方,IL-13, IL-4の24時間単独刺激はMUC5AC, MUC5B発現上昇を誘導しなかった。共刺激添加に関しては、HBE1においてIL-17+TLR ligandsなどいくつかの組み合わせで相加的なMUC5AC/MUC5B誘導がみられたものの,NHBEでは相加的発現誘導は確認されず、その反応は細胞種により異なるものと考えられた。特に、正常気管上皮の初代培養細胞であるNHBEにおいて相加的誘導が確認されなかったことから、MUC5AC/MUC5B発現における各種刺激因子の相加相乗作用は乏しいものと考えられた。 一方、抗菌ペプチドならびに上皮産生性サイトカインの発現に関して検討したところ、IL-17+TLR ligands (pam3csk, LPS)共添加刺激によりhuman β-defensin2、IL-8の相加相乗発現誘導を認め、その誘導はNHBE, HBE1の両者で同様であった。IL-17において、TNFαなどとの相加相乗効果は既に報告されているものの、TLR ligandsを始めとする自然免疫との相乗作用に関する報告は少なく、非常に意義深い知見と考えられた。現在その細胞内メカニズムの解析について研究を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
前述のごとく、MUC5AC/MUC5Bの相加的発現誘導に関して、NHBEにてその誘導が確認されなかった。一方で、IL-17とTLR ligands (pam3csk, LPS)の共添加は、NHBEとHBE1におけるIL-8とhuman β-defensin2発現を相乗的に誘導することを見出した。これは、気道上皮における自然免疫と獲得免疫の相互作用を示す、これまでに報告のない意義深い知見であり、今後はそのメカニズムの解明を中心に研究を進めたいと考えている。 気道上皮は、気管支喘息病態に関与するサイトカイン(TSLP, IL-33, IL-25)やケモカインを始め、粘膜免疫や生体防御に関わる各種サイトカイン、抗菌ペプチドを数多く発現し、獲得免疫誘導に関与する一方で、気道上皮自体における自然免疫と獲得免疫の相互作用に関する検討は少ない。今後は、これまで得られた結果を発展させ、IL-17とTLR ligandsの共添加による相乗作用について、それに関わる細胞内メカニズムの解析を主体に実験をすすめ、この遂行に関して“翌年度以降に請求する研究費”に加えて“次年度に使用する予定の研究費”を使用したいと考えている。 IL-17とTLR ligandsはいずれもNF-κBの活性化を誘導することから、両者の相乗作用におけるNF-κB 経路の関与について解析を進める。western blotting法を用いて、Iκ-Bのリン酸化や分解、またNF-κB(p50, p65)の核内移行を検出し、単独刺激と共刺激におけるそれら相違を検討する。また、MAPK(ERK, p-38, JNK)経路の関与について、そのリン酸化を主体にwestern blottingで検討する。また各種インヒビターやsiRNAを用いていかなる経路阻害が相乗的作用を抑制しうるか検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続きヒト気管上皮細胞初代培養系を主体に研究を進めるため,正常ヒト気管上皮細胞,気管上皮細胞培地キットが必須であり、研究費より購入することを計画している。また,相乗作用のメカニズム解析のため、経路抑制に用いる各種インヒビター,siRNAおよびsiRNA導入試薬が必要となる。さらに、細胞内シグナル伝達機構の検討として、western blotting関連試薬が必要であり、研究費を用いて購入したいと考えている。 また、実験に用いる各種添加用試薬(サイトカイン、TLR ligands),mRNA発現誘導の確認のための遺伝子発現関連研究試薬(RNA抽出、RT、real-time PCR)については、本年度同様に購入する必要がある。
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