はじめに、EML4-ALK陽性肺癌細胞株(H2228)を用いて、ALK阻害剤(Crizotinib)に耐性化した細胞クローンを樹立した。耐性株のALK遺伝子に二次的変異が生じているか否かを検討するため、細胞からゲノムDNAを抽出しシークエンサーで解析したところ、親株と比較して異なる配列は認められず、我々の系においては耐性化に二次的変異は関与していないと判断した。 次に、親株と耐性株で異なる発現パターンを示す遺伝子を検索した。RT-PCRで解析した結果、これまでに癌での関与があまり知られていない一群の遺伝子ファミリーに関して、一部の耐性株で特徴的な発現パターンが認められた。これらについて機能的な解析を行ったが、本課題の期間内には結論が得られず、継続中である。 また、癌の微小環境による薬剤感受性・耐性の修飾について解析するため、三次元培養法を用いて親株と耐性株の比較を行った。通常の培養皿による二次元培養では、これらに形態的な違いは認められなかったが、細胞外基質を成分として含む材料を使用した三次元培養では、細胞集塊の形成過程で明らかな違いが認められた。この点についても、細胞膜タンパク質の発現パターンを中心として解析を継続中であるが、上記と同様に本課題の期間内には結論が得られていない。 最後に、これら遺伝子発現プログラムの変容を包括的に理解するために、アレイ解析を計画し現在実行中である。ここでは、non-coding RNAを含むトランスクリプトームを対象としており、これまでに知られていない新たな機序が見出されると期待する。本課題の期間内に、発表可能なレベルの具体的な成果を得ることは出来なかったが、基盤となるデータは得られたので、今後も継続して解析を行う予定である。
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