研究課題/領域番号 |
23790919
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
植松 崇之 北里大学, 北里大学メディカルセンター, 上級研究員 (90414060)
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キーワード | ウイルス / 感染症 / シグナル伝達 / 免疫学 |
研究概要 |
平成24年度までに、研究代表者らはインフルエンザウイルス(IFV)を感染させたCARD9欠損マウスでは、IFV感染に起因する炎症性サイトカイン産生が減弱し、野生型マウスに比べ生存率が有意に上昇することを見出した。そこで、平成25年度は、IFV感染時に起こる過剰な炎症性サイトカイン/ケモカイン産生に注目し、CARD9欠損によって具体的にどのような炎症性サイトカイン/ケモカインの産生が低下するのかを網羅的に明らかにすべく、マウスを用いた感染実験によるin vivo解析およびマクロファージ/樹状細胞を用いた細胞刺激実験によるin vitro解析を実施した。まず、マウスを用いたIFV感染実験の結果、感染4日目のCARD9欠損マウスにおける肺胞-気管支洗浄液では、IL-6, TNF-αなどの炎症性サイトカイン、MIP-1α, CXCL1/KC, CXCL10/IP-10などの炎症性ケモカインの産生が、野生型マウスに比較して有意に低下していることが分かった。一方で、直接的な抗ウイルス応答に関わるI型インターフェロンの産生については、野生型マウスと差異を認めなかったことから、CARD9欠損はIFV感染に対する抵抗性には影響を与えないことが分かった。また、野生型マウスおよびCARD9欠損マウス由来のマクロファージや樹状細胞にIFVをin vitroで接触させた際に誘導される炎症性サイトカインを測定したところ、IFV接触時の骨髄由来およびチオグリコレート誘導マクロファージからのIL-6, TNF-α産生は両者で差がなかったが、骨髄由来樹状細胞および形質細胞様樹状細胞からのIL-6, TNF-α産生はCARD9欠損マウスで大きく減少した。以上の結果から、IFV感染に伴う自然免疫の過剰な活性化に、樹状細胞におけるCARD9を介した新規のIFV認識機構が関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度については、CARD9欠損によるIFV感染時の炎症性サイトカイン/ケモカイン産生への影響を、in vivoおよびin vitroにおいて明確にすることを目標に掲げた。その結果、双方の実験系においても、特定の炎症性サイトカイン/ケモカイン産生の低下を確認することができた。さらに、in vitroにおける解析の結果、CARD9欠損によるIFV感染時の炎症性サイトカイン/ケモカイン産生低下は、マクロファージではなく、樹状細胞で顕著に認められることが明らかとなり、概ね当初の目的を達成することができた。しかしながら、平成25年度に解析を予定していたin vitroにおけるIFV認識に関する具体的なITAM関連受容体の同定やCARD9シグナル関連分子欠損マウスを用いた感染実験に着手するまでには至らなかったことから、「(2)おおむね順調に進展している。」との評価結果とした。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度となる平成25年度は、in vitroにおけるIFV認識に関する具体的なITAM関連受容体の同定とCARD9シグナル関連分子欠損マウスを用いた感染実験を実施する。すなわち、前者の解析については、CARD9シグナルの上流に位置する様々なITAM関連受容体-IgG融合タンパク質(ITAMR-Ig)を作成し、IFVとの結合をin vitro binding assayおよび免疫沈降法により検討する。これに合わせて、ITAM関連受容体を発現したNFAT-GFPレポーター細胞を作成し、固相化したIFVで細胞を刺激した場合のNFAT活性化をフローサイトメーターを用いて解析する。また、後者の解析については、CARD9の上流に位置するITAMアダプター分子であるDAP12, FcRγを欠損するマウスなどを用いてのIFV感染実験を実施し、これまでに観察された現象がどのITAM関連受容体-CARD9シグナル経路に依存するかを解析する。これらの解析で使用予定の組換えタンパクや細胞、マウスの準備については既に平成24年度中に終了していることから、これらの材料を有効に利用して迅速な研究の推進に努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費は、主としてマウスの維持と購入、ELISA・フローサイトメーター解析・ウエスタンブロッティングで用いる抗体や測定分析キット、分子生物学研究用の試薬などの消耗品の購入に充てられる。また、本研究を遂行する上で、細胞の分離培養を行うための試薬やプラスティック器具の購入も不可欠である。以上の消耗品の購入には、これまでの試算から年間50万円程度を見込んでいる。また、研究協力者との研究打ち合わせや学会参加・発表などのための旅費も必須である。これには年間約20万円程度を見込んでいる。その他、論文発表のための印刷費(年間約10万円)や受託解析費用(年間約5万円)などの経費を加算し、平成25年度の研究費として総額85万円を使用する予定である。 なお、平成24年度は予定していた解析が概ね順調に進展し、余分な経費負担が発生しなかったことに加え、民間研究助成金を獲得できたため、約5万円弱の繰り越しが生じた。これについては前述したように平成25年度の物品費に上乗せし、経済的かつ合理的な執行に努めることとする。
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