研究課題
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の中心的な発症メカニズムは、気道や肺の慢性炎症による障害であると考えられ、リスク因子として最も重要なのは喫煙である。研究代表者は、COPDの肺において増幅し遷延する「異常な炎症」が特定のマイクロRNAにより制御されうることを、ヒト肺線維芽細胞を用いた解析で明らかにしてきた。本年度は、すでに研究代表者らが確立したCOPD動物モデルであるSMP30-KOマウスに、8週間の喫煙曝露実験を行い、COPD発症に関わるマイクロRNAについて検討した。8週間の喫煙曝露により、SMP30-KOマウスではCOPDを発症したが、野生型(対照)マウスでは発症しなかった。非喫煙(新鮮大気曝露)群では、SMP30-KOと野生型マウスを比較すると、肺組織において発現の相違がみられたマイクロRNA数は86であった(1.5倍以上の増減を有意とした)。喫煙群では、40のマイクロRNAがSMP30-KOマウス肺で発現が有意に亢進しており、その中には炎症性疾患との関連が示唆されるmiR-155及びmiR-223が含まれていた。一方、喫煙後のSMP30-KOマウス肺で発現が有意に低下しているマイクロRNAは59であり、その中には筋疾患との関連が報告されているmiR-1, 133, 206といったマイクロRNAが含まれていた。喫煙によって肺組織での発現プロファイルが変化するこれらのマイクロRNAは、COPDの病態における新たなキープレイヤーである可能性があると考えられる。また、同じRNAサンプルを用いて全遺伝子に対するマイクロアレイ解析も実施し、COPDの病態に関わる候補マイクロRNAのターゲット遺伝子についても統合解析により複数ピックアップしている。次年度以降、こうしたマイクロRNAがCOPDの病態に与える役割について詳細に解明していく。
2: おおむね順調に進展している
研究協力施設である東京都健康長寿医療センター研究所からのSMP30ノックアウトマウスの供給が順調で、当初の計画通りの喫煙曝露実験を行うことができたため。
本年度で同定されたCOPDの病態に関わる候補マイクロRNAに対して、まず肺組織中での発現分布をin situ hybridization法を用いて検討する。その分布によりin vitro実験系の戦略を構築する。候補マイクロRNAの機能解析としてはターゲットとなり得る遺伝子の検索を継続する。研究が順調に進捗すればマイクロRNAの治療介入実験も計画したい。
引き続き有能な実験補助員である三井亜樹への給与として必要額を支出する。また、上記in situ hypridization実験に必要な試薬類、マイクロRNAおよび遺伝子の発現解析、機能解析に必要な試薬類の購入に充てる予定である。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
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